第3話
「なあ、開けてくれよ!」
あたしはドアをドンドンと叩くが、返事がない。
麗もいなくなり、あたしは仕方なくドアに背を向けて寄りかかり、体育座りをして体を丸めた。
意外とマンガの内容って憶えてないもんだよなぁ。最後に読んだのいつだっけ? 大筋は憶えてても、細かいところとか全く思い出せない……。
思わず空を仰ぎ、溜息を漏らした。
あたしと〝西條遥〟って性格違い過ぎるんだな……。西條遥が寮に案内された時、確か藤堂雅は彼女が部屋に入るのを拒まなかったし。随分、扱い違うな……。
そんなことを考えて、何だか少し悲しくなった。
マンガの主人公は、主人公だから相手役に好きになってもらえたり、大切にしてもらえたりするんだと思ってた。でも、そうじゃない。主人公は、やっぱり魅力的な女の子なんだ。きっと、三次元の世界にいっても、素敵な人が付くんだろうな……。
どれくらい体育座りをしていただろう。日も暮れる頃、急にガチャッとドアが開き、背中に激突した。
「げっ、お前、まだいたのかよ!?」
雅は少し低めのイケメン声でそう言ってから、見上げるあたしに目をやった。あたしの瞳には薄らと涙が溜まっている。
「……泣いてんのか?」
雅の言葉に、あたしはハッとして制服の袖で急いで涙を拭う。
「……泣いてない」
その様子を見て、雅は、ハァ――――――、と長い溜息をついた。
「……俺、ちょっと外出てくるから、部屋に入って顔でも洗ってろ」
「いいの?」
「部屋のモンには一切触んなよ!? というか、そこを退け。出られない」
あたしは立ち上がり、その場を退く。雅が出て行き、階に誰もいなくなった。
ゆっくりドアを開けて、中に入る。お風呂場やらトイレやらが左右にある廊下を抜けて、広い部屋に出た。そして、目を見張った。その部屋の一角に、幾つもの段ボールが置いてあったのだ。
あたしが送った(らしい)荷物だ……。運んでおいてくれたんだ……。
部屋は広い割に、物が少なかった。大きな薄型テレビ、傍に置かれたテレビゲーム機、ソファ、テーブルと椅子くらいしかなかった。
言われた通り、洗面で顔を洗って、雅のいない間に段ボールの中のものを整理した。
入っていたものは、男性物の洋服、下着類(女性物とトランクス両方入っていた)、数日用のシャンプーやリンス、洗顔料等の日用品等々。
荷物を段ボールから全て出し終わり、段ボールも畳んで重ねた。
まだ雅が帰って来なかったので、部屋の左右に付いたドアを開けてみる。
まずは近くの左側のドアを開けた。ベッドと、机、椅子、箪笥が置かれていた。誰も使っていないようだった。
あたしってこの部屋使うのかな?
そう思って、荷物を全てその部屋に運び、洋服も全て箪笥に仕舞う。
部屋を出て、今度は反対側のドアの前に立った。
ここって、雅の部屋だよね……?
確信犯で、ドアをゆっくりと開けた。そこには、パソコンの置かれたデスク、少年マンガが少々、あとは経営とか、難しそうな本が並んでいた。
部屋は少し覗いただけで、すぐにドアを閉めた。
あたしはソファに腰かけて、時計に目をやる。針は八時を指していた。
流石にお腹空いたなー。雅も遅いし、どこ行ったんだろう?
気になって、あたしは1001の部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。1のボタンに触れると、そこが白く光った。
1階まで停まらずにいくかと思いきや、一つ下の9階で停まり、ドアが開いた。何人もの生徒がエレベーターに乗り込む。どうやら、9階には食堂があるようだ。皆、食事を終えて部屋に戻るらしい。
複数階に停まり、やっと1階に辿り着いた。あたしは走って、寮を後にする。
街には街灯が灯り、闇夜を照らしていた。
当てはない。ただ、近くのコンビニとか、商店街とか、思いつく場所に行ってみた。でも、そんな簡単に雅を見つけることはできない。
どこ行っちゃったんだろう? もう部屋に戻ってるのかな……?
そう思うのと同時に、何となく部屋にはまだ戻っていないような気がしていた。いや、それは気のせいではなく、確信に近かった。
あたしは、ファンメモの中身を思い出そうと必死に思考を巡らせる。
西條遥が寮に来たその日、藤堂雅はどこへ行った?
「――――あ!!」
あたしは漸く思い出し、その場所へと全速力で駆け出した。