第37話
王子部のメンバーは〝真の男子競技会〟に向けて、猛特訓していた。
麗は図書館でひたすら書物を漁って勉強し、隼はグラウンドで筋トレと運動部の助っ人を行っていた。奏は一通りの楽器を練習するのだとかで、日替わりで音楽系の部活にお邪魔している。今日は軽音部でエレキギターの練習だとか。雅は図書室で借りた世界の料理本を熟読し、調理室でその内のいくつかを実際に作っている。
あたしはというと、何が出るか分からないオールマイティー枠なわけで対策も何もあったものではないが、とりあえず基礎体力作りのために隼の筋トレに参加してみたり、知能を鍛えるために麗と一緒に勉強してみたりしていた。休日はセンスを磨くために美術館やコンサートホールに足を運んだりもした。
各々の努力が日々を刻み、ついにコンペ当日がやって来た――。
今年のコンペは去年の勝利校である秀麗学院で行われる。
王子部同士のコンペは有名で、メディアは勿論、各地から様々な人たちが一堂に集まる。招待客以外の一般客はチケットを購入しないと見学できない。因みに即完売。
講堂の舞台袖から客席を覗く。びっしりと埋まっており、空席が見当たらない。
「遥クン、もしかしてビビってんの?」
あたしは背後からの声に素早く振り返った。絢爛学園王子部の五人の登場である。
「お前、スポーツ枠だろ? オレもなんだぜ!」
早速港が隼に近づく。隼は薄ら笑いを浮かべた。
「先輩に『お前』とはいい度胸だな。かかってこいよ! 俺が返り討ちにしてやるぜ!!」
「それを更に返してやるっ!!」
早くも宣戦布告でヒートアップ。
「昴、あの時の勝負がまだだったな」
雅は昴に近づき低い声を出す。昴は目を細め口角を上げた。
「何? お前、まだ遥チャンに告ってなかったんだ? しかも俺あのゲームで一番にゴールできなかったのに、まだチャンスくれるわけ?」
「お前が俺にどうしたいのかを明確にしてくれたからな。あの時はちょっとあって結果的に勝負ができなかったけど、今日は邪魔が入らず正々堂々と戦えそうだ」
昴は雅に情けをかけられたように感じて、自嘲気味に笑った。
「……お前のそういうところが嫌いなんだよ。――今言ったこと、ぜってー後悔させてやる……!」
あたしは二人が声を潜めて話しているのを見て、いつから仲良くなったんだろうと思っていた。
〝真の男子競技会〟が漸く開始された。会場はまだ暗い。ステージには秀麗学院と絢爛学園に分かれた席がハの字に並べられ、そこに五人が出場順に並んでいる。客席側から知識、芸術、スポーツ、料理、オールマイティーの順で、あたしは最も奥側に座っている。絢爛学園での相手は予想通り漣流らしい。
設置された大きなスクリーンに、大音量で各校の紹介と王子部員の紹介が流れ始めた。こんなの撮ったっけ? と思っていたら、全て隠し撮りだった。映像に合わせて、誰はどこの御曹司だとか、誰はこんな才能があるだとか、説明が流れる。雅が料理枠で紹介された時には会場から驚きの声が上がった。じゃあオールマイティー枠は誰が出るんだ、とざわめいているのが分かる。
あ、次あたしが紹介される番だ! ドキドキ。
「秀麗学院オールマイティー枠での出場は、西條遥くんです! ……続いては絢爛学園です!!」
短っ!! 今紹介の時間十秒あった!? しかも流れてる映像は、焼き芋して先生に怒られてる姿とか、死のギリシャ料理作って泡吹いてるシーンとか。誰だよ提供したの!!
料理枠に座る昴がお腹を抱えながら体を震わせているのが分かる。
全員の紹介映像が終わり、会場が明るくなる。出場枠毎にそれぞれ一言求められ、マイクが順に回ってくる。
「味、見た目、更に過程のパフォーマンスにも注意を払い、妥協を許さない料理を作ろうと思います」
雅の一言に会場から拍手が湧き起こる。次にマイクを渡された昴は、雅の拍手が終わらない内にとびっきりの笑顔で断言した。
「ぶっ潰します♪」
会場がしんと静まり返る。その後にすぐマイクを渡されたあたし。何喋ればいいんだよ!?
何も思い浮かばないまま、マイクに口を近づける。
「……が、頑張ります」
キ――――ン。
何であたしの時だけマイク反響すんだよ!? 客席から若干の笑い。
その後は流が、西條くんには負けません、等と真顔で言い、第一試合である〝知識〟へと移った。
知識は早押しクイズ。ペーパーでやっても勝敗が付かないかららしい。テレビのクイズ番組のような早押しセットが会場に現れる。高校生クイズのようだ。国定麗と四宮静が向かい合い、いよいよ問題が読まれる。
「問題です」
じゃじゃん。
「ハカイシ――」
ピコーン!
麗がボタンを押すのと同時に頭に載った水色のシルクハットのトップがオレンジ色の光と共にピコーンと開く。
「おーっと、早かったのは秀麗学院の国定麗! 正解となるのか!?」
麗は目の前に設置されたマイクに向かって答える。
「二〇〇年後」
ピンポンピンポン!!
麗の座るセットのテーブルが光り、頭の蓋が元に戻る。
「秀麗学院、先制です! さて今の問題ですが、『ハカイシ=ヨール星人が地球に侵略しに来るのは今から何年後と推定されているでしょうか』。答えは二〇〇年後です!」
えぇ!?
会場から拍手が湧くが、あたしは控室のモニターを見ながらアホのように口を開けた。
この世界、あと二〇〇年で宇宙人が侵略しに来ちゃうの!? こんな悠長に問題なんかにしていいの!?
「遥クーン、口元から涎出てるよ。汚ーい」
昴に言われて、ズズズと涎を啜る。いや、そんなことより!
「いいの!? ハカイシ=ヨール星人が地球を滅亡しに来るんだよ!?」
全員が目を瞬いて、慌てふためくあたしを見つめる。隼が代表して答えた。
「遥、今更知ったのかよ!? 情報おせぇな。それはともかく二〇〇年後だぜ? その時俺ら生きてないじゃん」
ああそうかい。
「それに、ハカイシ=ヨール星人が地球を滅亡しに来るとは限んねーだろ? 実は友好的な奴らかも知んねぇし。人類を遥かに超える技術持ってて、地球人と協力して宇宙征服の巨大勢力の一つになるかもしんねぇじゃん!」
どこのSFストーリーだよ。
あたしがこんな下らない話を隼としている間に、麗と静の白熱したバトルが続く。両者一歩も譲らず最終問題に突入。緊張した空気が流れる中、最後の問題を取ったのは――。
「知識枠、勝利したのは絢爛学園の四宮静くんです!!」
えぇ!? 麗さん負けちゃったの!?
暫くすると、麗と静が控室にやって来た。
「ごめん、負けちゃった」
麗が申し訳なさそうに言う。まあでも早押しだから仕方ないよね。次、次!




