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二次元コンプレックス  作者:
第六章 「真の男子競技会」
36/42

第35話

 コンコンコンと三回扉をノックする。暫くすると国定戒がドアの隙間から顔を覗かせた。


「ルームサービスです」


 あたしはホテルの従業員の制服を着て、フルーツと紅茶の乗った銀のカートを横に携えて戒を見つめた。


「ルームサービスなんて頼んでないけど?」

「先ほど四宮司様よりご依頼がありまして、お持ち致しました。併せて伝言も預かっております。『次は負けないからな』とのことです」


 戒は一度部屋の奥へ体を引っ込めてから、再び扉を開けてあたしを中に招き入れた。


「失礼致します」

 カートを押しながら、テーブルの横に付ける。


 鼓動が高鳴る。まるで太鼓が近くでなっているようだ。


 カートの影から手をテーブルの裏側に回し、盗聴器を接着。成功。

 フルーツの盛り合わせをテーブルの中央に置き、ティーカップを二人分並べて紅茶を注ぐ。アタッシュケースを一瞥して、カートを押し出口に向かう。そして、わざとサイドボードに体をぶつけた。


「す、すみません!」


 飾ってあった小物が落ちたのを拾い、小型カメラが内蔵された似た型の小物に差し替えて何食わぬ顔で元に戻す。成功。


「失礼致しました」


 一礼して部屋を後にする。そのまま隣の部屋にカートごと持ち込んだ。


「お疲れさん」


 テーブルの上にノートパソコンを広げる佐祐の後ろで、あたしは深く息をついてベッドに乱暴に腰を下ろした。手に汗が浮き出ている。


「声、震えてなかった?」

「いや、バッチリだ。特に四宮司からの最後の伝言は効果絶大だったぞ! 何せ話の内容は当人しか知らないと思い込んでいるんだからな。よく機転が利いたな」


 歯を見せて笑う佐祐。褒められるとあたしも嬉しい。


 藤堂猛と国定戒のやり取りを見た直後、あたしは頭が真っ白になった。無意識のうちに、小型マイクに声が届くように状況を説明。それから暫くその場に立ち尽くしていた。雅はそんなあたしを抱きしめてくれた。多分、放心状態のあたしを安心させようとしてくれたんだと思う。凄く嬉しかったけど、喜んでいる暇はなかった。


 あたしからの連絡を受け取った朔夜と佐祐は急いでその場に駆けつけてくれた。


 佐祐は隣の部屋を何かの機械を使って開け、テーブルでノートパソコンを広げ始めた。クロークに預けた荷物を引き取り、非常階段を疾駆してくれたらしい。朔夜は手に持っていた従業員の制服をあたしに手渡すと、それを着るように指示。どうやら、偶々カートを押しながら通りかかった従業員の制服を失敬してきたらしい。従業員の彼女は今頃、洋式トイレで眠っているだろう。起きる時には制服もカートも戻っているだろうし、一瞬のことで襲われた時の記憶もないだろう。まあ、カートの上にあったものは全て無くなっているけどね。


 朔夜が部屋にあった小物に小型カメラを即席で取り付け、それと盗聴器を持ってカートで隣の部屋へ。そして盗聴器とカメラを仕掛け、戻って来たというわけだ。


 きっと今一番驚いているのは雅だ。彼は朔夜が来るなり「先生!?」と声を上げ、華麗に鍵をピックする佐祐を見て眉根を寄せていた。彼らの指示にすぐに動作するあたしを見て、雅は声を漏らした。


「西條達って一体……?」


 とりあえず後で説明するとだけ言って、あたしは従業員に扮して部屋を出た。で、今戻って来て全員でパソコン画面を覗いてる。あたしが置いた小物の位置から藤堂猛と国定戒が映る。


『それにしてもさっきのルームサービスの子は慌てん坊だったな』

『若かったですし、まだ新人さんなのでしょう』

 国定戒の回答に頷きながら、藤堂猛は紅茶を口に含んだ。

『……温いな』


 そりゃそうだ。


 藤堂猛はフルーツに手を伸ばしたが、国定戒はそれを皿ごとひょいっと持ち上げた。


『戒、何をする!?』

『社長、今回新調したのはどうしてだかご存知ですよね? 社長が太ったからですよ!? 今日もこれからお仕事がありますから今回は仕方なく一式用意しましたが、体重をキープすることも怪盗には必要なことなんですから!』


「…………………………………」

 画面を覗き込む全員が石のように固まった。


 今、カイトウって言いました? 回答? 解答? 解凍? 快闘?


『分かっている! だがしかし、私の体重は平均値のはずだ。それに、スーツをあまりにもピッチリ作り過ぎなんだ。これじゃあ食事しただけで着れなくなってしまうではないか!』


 猛の意見に、戒はアタッシュケースを取り出し、中を開けた。


「こ、これは――!?」

 佐祐他三名が瞠目する。


『社長がそう言うと思って、伸縮性に優れたスーツを用意しましたよ』


 戒は中身を取り出した。黒いワイシャツ、黒いネクタイ、黒いスラックス、黒いロングコート、黒い目元だけのファントムマスク。


『早速なんで一度試着してみて下さい』


 彼に言われるまま、猛が着替え始める。一見普通の全身黒スーツだ。しかし、猛が首元に付いたボタンをカチッと押すと、センサーが付いているのか、ワイシャツ、スラックス共に体にフィットした。伸縮性に優れ、動きやすそうである。


『おお、これは動きやすいぞ!』

 感動したように猛は手足を動かしてから、ファントムマスクを目元に装着した。


「――これはまさに、漆黒の闇〝ダークネス〟!!」


 やっぱり――――――!!


 佐祐は感動したように画面に食い入り、雅は口を開けたまま呆然としていた。藤堂猛は小型カメラが設置されているとも知らず、幾つも決めポーズを披露している。


「……俺、将来あの仕事まで継がなきゃいけないの?」

「……さあ。もしよければ隼にやってもらえば? 確かダークネスさんのファンだって言ってたよ」

「………………」


 複雑な思いを秘め、とりあえず封印することに決めた雅。その話を息子にする日が来たら、どうするか考えるのだそうだ。


 怪盗といっても、弱きを助け強きを挫く正義の味方という感じなので、特に今回の案件の指揮官には報告しないことにした。佐祐さんはダークネスさんが好きらしいしね。


 誰もが思いがけない展開で、漣ホールディングスのパーティーは幕を閉じた。


 漆黒の闇〝ダークネス〟さんは、今日も誰かのために闇夜を駆けります。

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