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二次元コンプレックス  作者:
第五章 「パーティーは余興が命」
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第33話

「レイディースアンドジェントルメン! 本日は漣ホールディングスのパーティーにご参集下さりありがとうございます。折角いらしていただいたお客様方が退屈なさらないように、ホテルの方々の全面協力を得て、ささやかながら余興を用意致しました。是非、お楽しみ下さい」


 司会が余興の説明に移る。


 余興はその名も〝パートナークエスト〟。男女ペアで参加するゲームだ。女性はホテルの最上階、男性はこの会場をスタート地点とし、様々な障害を乗り越えて自分のパートナーを探す。無事パートナーに会うことができたら、この会場に戻って来る。エレベーターや非常階段の使用は禁止。一番最初に戻って来たペアが優勝で、豪華飛行船遊覧ディナーご招待券が贈呈される。


「この余興のキーは女性がどれだけ早く下の階に下りて来られるかですね。愛と絆で最初にゴールするのは一体どのペアなんでしょうか!?」


 ペア毎に色の違う参加証のバッジが手渡され、各々胸元に付けた。


「それでは女性はこちらへ。エレベーターで最上階へ向かいます」


 アナウンスに従って、余興に参加する女性たちが会場から退出する。


「じゃあまた後でねー」


 昴が雅の横であたしにひらひらと手を振る。あたしと昴の胸のバッジは藤色。あたしの隣にいる桜子と雅はローズ。雅とペアなのはあたしじゃないんだと視覚的に訴えられる。


 あたしたちはエレベーターに乗り、最上階へ。一番広い、ビップが宿泊すると思われる部屋に通された。女性の数はおよそ三十。男性も合わせると約六十人が参加していることになる。


「それでは始めます。用意――スタート!!」


 会場と通信を取っていた案内役が余興の火蓋を切ると、女性陣が一斉に部屋から飛び出すかと思いきや、意外とそうでもなかった。部屋のソファや椅子に腰かけ、パートナーが下から上がって来てくれるのを待っているのだろう。完全にお姫様だ。


 会場を飛び出したのは、あたしや朔夜を含めた約半分。


「こういうのは本気でやらないと面白くないのよ!」

 艶華はヒールが十センチはあるのではないかという黒いエナメルパンプスを履いているにもかかわらず、光の如きスピードで廊下に出た。階段を見つけて下の階に

下りる。


 流石雅のお姉さん……。容姿、スキル共にハンパないわ……。


 腫れた足に鞭を打つあたし、朔夜、渚がそれに続き、更に残りのお嬢様方が続く。桜子と凛も一生懸命走っていた。


 このホテルの構造として、階段は一階置きに左右交互に設置されている。例えば一階の階段がホテルの右側にあったら、二階の階段は廊下を走った左側。三階は右、四階は左……といった具体だ。普通そんな面倒臭い構造のホテルないよ! と思う。




 試合開始のホイッスルが鳴ってから、男性陣も走って会場を後にした。全員で階段を目指す。


「藤堂」


 前を見て走りながら昴が声を張り上げる。雅は怪訝な顔をして目をやった。


「今回の余興はな、残念ながら俺から藤堂への仕掛けはないんだ」

「……そりゃどうも」

「どうしてフェアにしたと思う?」

「……………」

「遥チャンだよ」

 昴は階段を上りながら、ニッと笑う。雅の眉が僅かに動いた。

「彼女、面白いよな。あんな子初めてだよ。行動のどれもが絵にならないし、寸胴だし、俺に説教もするし……。でも、それが新鮮で飽きない。一緒にいると、次はどんな面白いことが起こるんだろうってワクワクするし、何か困難があっても彼女となら笑って乗り越えていける気がするんだ。――で、俺としては、このゲームで一番にゴールしたら遥チャンに告白しようと思ってるわけ」


 階段を上り切り、広い廊下に来た。バイトで雇われた複数人が参加者たちを阻む。それらを華麗に躱し、手刀を加えながら次なる階段を上り始める。


「何で俺にそんなこと話すんだよ」

 雅と昴は両者一歩も譲らず、肩を並べて独走する。

「藤堂があの時言った『こいつが女だと思いたくなかった』って台詞。あれって、こんな奴を女だと思いたくないって意味じゃなくて、〝こいつを女だと認識したら好きになってしまいそうだからそう思いたくなかった〟って意味なんじゃないの? まあ、遥チャンは完全に誤解してるけどね。つまり、藤堂は遥チャンのことを好きになってしまうのを何でか恐れてるんだ。俺、何か間違えたこと言ってる?」


 ハードルや網潜り等、次々と繰り出される障害を乗り越えながら、階段をひたすら上る。


「……仮に俺が西條を好きだとして、それがお前の告白と何の関係があるんだよ」

「随分と余裕のある台詞だな」

 昴の台詞に雅は眉を顰める。

「お前、俺が告白しても遥チャンがオーケーしないと思ってんだろ。でも、それは大いなる勘違いだぜ? 俺は積極的に遥チャンとの時間を作っているし、お前よりも多くコミュニケーションを取っている自信がある。今回だって俺のパートナーとしてパーティーに出席してくれたし、あのドレスだって俺が彼女に送った物だ。俺はお前なんかより、遥かに遥チャンに近い存在なんだよ!」


 雅は、遥が昴から電話を貰った後に涙目になって叫んで寮を出て行ったことを思い出した。あれはきっと昴の元へ行ったのだと思う。それを考えると、昴の言っていることは本当なんだろうと認めざるを得ない。別に自分が西條に近い存在だと思っていたわけではない。……いや、きっと知らず知らずの内にそう思っていたのだ。だから、昴に余裕がある等と言われてしまったのだ。


「……そうかもしれないな」


 雅の予想もしない返答に昴は片眉を吊り上げた。雅はぷっと可笑しそうに笑う。


「漸く俺も分かったよ。『こいつが女だと思いたくなかった』と言った時点で、俺はきっと西條を好きになっていたんだ。藤堂家の跡継ぎとして花宮家の令嬢と結婚しなきゃいけないと決まっていたから、誰のことも好きにならないと決めていた。だけど、そんなの俺の決めることだ。あいつは俺にないものを持ってる。かなり変人だし、正直俺でも恐ろしいと思うこともあるが、それでもあいつは真っ直ぐ相手にぶつかり、また相手のことも自分なりの判断基準で見る。きっとそういう純粋で一途なところに惹かれたんだろうな」


 雅は隣で走る昴に鋭い視線を向けた。


「お前の誘い、乗ってやるよ」

「!?」

「俺がお前より早くゴールしてやる。それで、お前の告白を俺が阻んでやるよ!」


 昴は雅の笑顔を見て、初めて彼に会った時のことを思い出した。自由で自信に満ちたあの表情。昴は拳を握りしめ、口角を吊り上げた。


「……望むところだ!」


 二人は走るスピードを更に加速させた。

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