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二次元コンプレックス  作者:
第五章 「パーティーは余興が命」
32/42

第31話

 今回のパーティーは、都内の有名ホテルで開催されるらしい。高級車が続々とホテルの正面に着く中、あたしたちの乗るリムジンもそこへ到着した。お抱えの運転手さんが扉を開け、最初に流が降りる。その次に昴が降りた。あたしも急いで降りなければと出口付近まで移動し外に目をやると、そこにはこちらに手を差し出して待っている昴の姿が。


「お手をどうぞ、お嬢様」


 プリンスオーラを出してお嬢様なんて言うもんだから、心臓がドキドキしちゃったじゃんか!


 あたしは可愛らしくもちょっと頬を染めながら、口を尖らせて照れを隠し、差し出された手に軽く自分の手を重ねた。昴はその手をしっかりと握って手前へ引っ張る。


 さぞや美しいシーンだったろう。あのまま何の問題もなければ。だけど、流石あたし。少女マンガの主人公のように美しく颯爽と歩くことさえ許されないのね……。


 昴に手を引かれ、リムジンから地に足を着いた直後、ピンヒールのせいで体制を崩し、体が左に傾いた。だが、昴が手を持っていてくれたお陰で体は倒れず、代わりに左足首だけグキッといきました。電撃が体内を巡るような痛み。じわじわと目に涙が溜まる。


「いった―――――いっ!!」


 涙目のまま左足首を押さえると、上の方からプッチンという音が聞こえた気がした。あたしは不思議に思い、そのまま上を見上げる。涙が止まり、サーッと眼球から引き下がった。


「……お前やる気あんの?」


 あたし絶句。


 鬼のような形相。殺気がハンパない。せめて命だけはお助けを! と懇願しようとしたら、昴は深く長い溜息をついてしゃがみ、徐々に赤く腫れてきたあたしの左足首を見つめた。


「そんなんじゃ歩けないだろ」


 昴はあたしを片足で立たせ、そのまま右手は背中、左手は膝下に滑り込ませ、あたしを抱きかかえた。ふわっと視界の角度が変わる。


 こ、これは夢にまで見たお姫様抱っこ――!?


「重い。骨が折れる。女なのにガタイ良すぎ」


 憎たらしいことを散々言っている昴だったが、何だかんだで優しいよな、と思う。あたしは昴の首に両手で掴まりながら、微笑んだ。


「ありがと!」


 昴はあたしのこの台詞を予想していなかったのか、少し顔を赤らめた。


「これくらい当然だっての!」




 ホテルのロビーを歩いている時から目立っていたが、会場に入ると更に凄かった。まあそれも当然か、とも思う。何せ紅いドレスというだけで目立つのに、その子が漣家の御曹司にお姫様抱っこされているのだから。


 大注目の中、昴は会場の端の方にあったソファの前であたしを降ろした。


「ちょっとそこで大人しくしてろ。俺、ちょっと挨拶回りしてくるから」


 そう言って昴が背を向けると、目の前に二人の英国風少年少女が笑顔で立っていた。あたしも昴もぎょっとする。


 少年の方は短い髪を黒いりぼんで一つに束ね、刺繍が施された裾の長いお洒落なブラウンコートを羽織っている。襟元には黒い長紐でりぼんを形作っている。


 少女の方は金髪セミロングにりぼん付カチューシャをして、ピンクのふりっふりのドレスを着ている。この二人も相当目立っていると思う。


 少年の顔は見覚えがある。万葉双子のどっちかだ。とすると、少女の方もその片割れ……?


「昴先輩、どうです? 渚の女装! 完璧でしょ!!」


 やっぱり。ということは、今喋ってるのが港か。


 凄い凄い、と昴が適当にあしらっていると、渚があたしに顔を近づけてきた。急いでウィッグの長い髪を手に顔を隠す。


「こちらの女性は……? 先輩はてっきりソロ参加だと思っていたのですが」

「あ、ああ。俺も今年の余興に参加したくなってな。こいつは……そこら辺で拾った」


 人を猫みたいに。


「つまりはナンパということですか?」

「……ま、そういうことだ」


 渚の丁寧なツッコミに苦笑を浮かべつつ答える昴。


「パーティーが始まる前に挨拶して来なくちゃいけないから、そろそろ解放してくれよ」


 昴のこの言葉に双子は頷き、あたしは一人ソファに残された。


 高級そうなスーツを着た男性たち、何色もの煌びやかなドレスに身を包む女性たち。あたしが経験したことのない、そしてこの先も経験しないであろう世界。非常に輝いて見えた。


 会場を隅から一望していると、視界の端に人影を捉え、あたしはその方に目を向けた。チャコールグレーのスーツを着たその人はあたしの前まで来ると、左足の前でしゃがみ、湿布を患部に張り付けた。


「随分痛そうですね、おじょーさん」


 雅!?


 あたしは驚いて体が硬直した。


 彼は湿布を張り終えると、あたしの隣に腰を下ろした。


 お礼を言うくらいだったら、声でバレないだろう。


「あ、ありがとう……」


 あたしがそう呟くと、雅は鋭い視線をあたしに突き刺してきた。


「……お前さ、何でそんな格好して昴のパートナーになってまで、こんなパーティーに参加してんの」


 早くもバレました。


「……何であたしだって分かったの……?」

「お前が昴に抱きかかえられて会場に入って来た時から分かってた。昴の考えそうなことだと思ったよ」


 何でもお見通しなんですね。


「……いいの? 桜子さん放っておいて」


 あたしは会場の奥に見える花宮桜子を捉えた。隣には水嶋凛がいる。彼女たちは二人で楽しそうに会話を弾ませていた。


「放ってるとかおかしいだろ。小学生じゃないんだから、俺が隣にいなきゃいけないってわけじゃねぇだろ。――怪我して動けない誰かさんを除いてな」


 あたしは雅の方に振り向いた。そんなこと言われると、キュンキュンしちゃうじゃん!


 あたしは自分の頬がほてっているのを感じていた。

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