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二次元コンプレックス  作者:
第五章 「パーティーは余興が命」
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第29話

 あたしは走って、昴に言われたお店の名前を探すが、見つからない。そろそろ約束の六時になってしまう。癪だと思いながら、着信履歴の最上位にダイヤルする。


『あ、遥チャン。もうすぐ六時になるけど、随分粘ったね。どうせ迷子ってんのに、俺に訊きたくなかったんでしょ? 俺相当嫌われてんね』

「……………」

『迎えに行くから、そこから動かないで。周りに何がある?』

「えーっと、3℃っていうジュエリーショップとか、ルイ・ベトンとかの近くの交差点にいるんだけど……」

『分かった』


 そう言って電話が切れてから、五分くらい待っていると息を切らした昴がやって来た。あたしの前に到着するなり、彼は中腰になる。あたしは腕時計に目をやると、六時を少し過ぎてしまっていた。恐る恐るあたしは声を出してみる。


「あ、あの……、何を奢ればよろしいのでしょうか? できれば、そんなにお高くないもの希望なんですが……」


 昴は顔を見上げ、キッとあたしを見つめた。あたしが一瞬たじろいだのを見て、昴は軽く溜息をつく。


「……ハナからあんたみたいなビンボー人に奢ってもらおうなんて思ってねぇよ。ほら行くぞ!」

 昴はあたしの手首を掴むなり、力強く引っ張った。


 十分強歩くと、ショーウィンドウに煌びやかなパーティードレスやスーツが陳列された店の前にやって来た。昴はそこで立ち止まる。


「入るぞ」

 あたしはぽかんと口を開けたまま、やっぱり昴に手首を引っ張られ、中に引きずり込まれた。ビシッとしたドアマンが扉を開ける。


「いらっしゃいませ、昴様。本日はどのようなものをお探しですか?」

「こいつに似合うパーティードレスを仕立ててやって」


 昴はそう言って、あたしを前に放り出した。学ランを着たあたしを見た女性店員は、困惑したようにあたしと昴に交互に目をやる。それに気付いた昴は、一言付け加えた。


「あ、こいつこんな格好してるけど、一応女だから。演劇部の練習中なのを無理やり連れて来たんだ」

「あ、左様でございますか!」

 店員は納得したように笑顔を見せ、こちらへどうぞ、とあたしを奥へ案内した。昴はそこら辺のソファに腰を下ろす。


 右側には色とりどりの輝くドレスが並び、左側にはシックでお洒落なスーツがずらりと並ぶ。その間を通り、奥の部屋に通された。店員がメジャーを取出し、あたしの寸法を測り始める。


 スリーサイズを教えろってこのためか……。それにしても何故にドレス? まさか……。


「バスト77、ウエスト66、ヒップ88でーす」

 メジャーで測る店員の声に反応して、あたしの右斜め前でそれを書き留める別の女性店員。


「ドレスのご希望はありますか? 色とか形とか」

 あたしは訊ねられて、満面の笑みを向ける。

「それじゃあ――」




「あ、終わったか」

 あたしが奥から戻ってきたのを見て、昴がソファから腰を上げる。


「できたらいつも通りウチに送っておいて。それと――」


 昴はあたしと一緒に出てきた店員の耳元で何かを囁いた。彼女は一瞬驚いた表情を見せたが、か、畏まりました、と慌てて頭を下げた。


 あたしは首を傾げつつ、昴の後に続いて店を出る。


「予想通りだな」


 突然昴が口にした言葉の意味が分からず、あたしは、何が? と問う。


「日本人女性の平均より、バストは小さい、ウエストは太い、ヒップはデカい」

「――――!? まさか聴き耳でも立ててたの!?」

 あたしは赤面しながら昴を睨み付ける。

「偶々聞こえたんだよ。俺って地獄耳だから」


 昴は澄まして言うが、絶対嘘だ!


 いい切り替えしが思い浮かばないまま、とりあえず吠えてみる。


「バストとウエストはともかく、ヒップがデカいのはいいじゃん! ボンッキュッボーンって言うでしょ! ヒップはデカい方がいいんだっ!!」


 あたしの反論に昴はふっと冷笑を向ける。


「バカか。この頃流行(はやり)の女の子はお尻の小さな女の子なんだよ」

「キ――――ッ!!」


 あたしは昴がひらひらと目の前に出したハンカチを掴み、口に銜えて引っ張った。うん、これはなかなかストレス発散になる。


「ま、それは置いといて。おおよその見当はついたと思うけど、遥チャンには女の子としてパーティーに参加してもらうよ」


 昴があたしの口からハンカチを取り上げ、ジーンズのポケットに仕舞う。


「あのさ……、確かに何となくそんな気はしてたんだけど、みんなにバレないかな? それに誰の相手役として参加すんの」

「バレないようにすんだよ。因みに、遥チャンの相手役は俺だから」

「えぇ――――!?」


 腹の底から声が湧き上がる。昴は笑顔を見せた。


「だーかーらー、俺に恥、かかせんなよ?」

「……………」


 あたしは思わず昴から一歩後退。何だか笑みが恐ろしい。


「それでー、パーティーまでの一か月半の間に、俺のパートナーに相応しい女になってもらわなきゃいけないから、これから毎日俺ンチで特訓な」


 見えない手錠があたしの腕に嵌っているようだった。

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