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二次元コンプレックス  作者:
第一章 「二次元の世界は甘くない」
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第2話

 高二の勉強なんて楽勝――とか思ってたら、案外そうでもなかった。

 大学に入り、大して勉強なんてしてなかったせいで完全に現役を離れてしまったし、そもそもこの学校、レベルの高い名門校って設定だし。


 あたしはシャーペンを人差し指と中指の間に挟み、くるくると回転させながら思った。


 夢にしては、リアルだよなぁ……。


 感覚がリアルなのだ。今ペンを回転させている感覚も、時間の長さも。


 夢ってこんなに長かったっけ?


 徐々に、これが夢である、という自分の考えに自信が持てなくなってきていた。それと同時に、そんなことを考えるなんて、ナンセンスだと思う自分もいた。


 放課後になって、ちっこいおじさん(名は大原と言うらしい)が、あたしを呼び止めた。


「西條くん」


 大原先生の元へ行き、何ですか、と訊く。彼は地図を手渡した。


「寮の場所ですよ。ここに君の部屋の番号も書いてありますよ」

「ありがとうございます」

 お礼を言って、教室を後にした。


 それにしても……。

 あたしは地図に目を落とす。

 相当適当に書かれた地図。真ん中に『学校』と書かれていて、左上に『寮ココ』と書かれているだけだった。


「これじゃ分かんないよ!」


 地図を見ながら叫ぶのと同時に、ドンッと誰かにぶつかってしまった。


「わっ……、す、すみません」


 とっさに頭を下げてから、上体を起こして瞠目。今目の前にいるのは、爽やかボーイ。背が高く、心配そうな表情が何とも堪らない。


「大丈夫?」


 その上、声も清らかで透き通っている。まさに王子声!


「だ、大丈夫です! こんなに元気です!!」


 テンションが高くなっているせいか、訳も分からず、腕を曲げて盛り上がらない筋肉を見せて元気アピールをするあたし。だがその人は、そんなあたしに困惑したように声を漏らす。


「いや、そうじゃなくて……、(よだれ)……」

「え……」

 あたしはズズズと口を啜って、手の甲で口元を拭った。


 あたしとしたことが、こんなイケメンの前で涎を垂らすなんて……!

 恥ずかしくなって、咄嗟に下を向く。


「あの……、君、もしかして転入生?」

「……はい」

 ちらっと、その人を見上げた。何でそんなこと訊くんだろう?

「寮の場所、探してるの?」

「はい……」

「ちょっと見せてくれる?」

 イケメンはあたしから地図を受け取ると、それを見て柔らかい笑顔を見せた。

「これじゃ分からないよね」

 思わず見とれてしまいそうな、困ったなーというような笑み。美しい。

「もしよければ、俺が案内してあげるけど」

「え! いいんですか!?」

 凄い食いつきだったんだと思う。イケメンは一瞬たじろぎ、それから苦笑した。

「も、勿論だよ」

 あたしは勢いよく、腰を曲げた。

「宜しくお願いします!」



 下駄箱から外を見て、あたしは口を大きく開けた。


 初めてこの学校を見たけど、超セレブ学校だ。正門をくぐると、白鳥の口から水が噴き出す噴水が拵えてあり、そこからまるでフォンデュタワーの如く水が溢れ、それは幾つかの水の流れを作り、小石の道を流れる川となっていた。その上にアーチ状やら水平やらの橋が架かっている。


 ナンダココ?


 橋を渡り、正門を通過し、右に曲がった。


「ところで、君、名前と学年は?」

「あ……おれ、西條遥と言います。二年A組に転校してきました」

「二年生なんだー。俺は、国定(くにさだ)(れい)。高三で、実は寮長をしているんだ」

「国定麗!?」


 突然大声を上げ、しかもフルネームを呼び捨てにするあたしに、彼は流石に驚いたようだった。


「あ、あなたが……!」

「……西條くん、俺のこと知ってるの?」

「あ……、いえ、名前があまりにも美しかったもので、つい興奮してしまいました……」


 国定麗は、何と返事をしてよいものやら困っていたが、やがて苦笑して答えた。


「ありがとう」


 なんていい人なんだ!


 国定麗。彼は、高校三年生で寮長をしている。彼の親は、藤堂グループ社長、藤堂猛の秘書をしていて、優秀なブレーンでもある。


 寮は正門を出て、徒歩五分くらいで到着した。


 流石金持ちの通う学校なだけはある。見た目は寮というより、セキュリティシステムがしっかりと整った城のようだった。トンガリが三カ所あり、中央のそれが一番高かった。一体、そこには何があるんだよ!?


 目の前には背が高くアーティスティックな黒いゲートが屹立し、そこから少し歩かないと寮まで辿り着けなさそうだった。


 ゲートの前にある機械で、自分の部屋番を押し、ICチップの埋め込まれた生徒証をかざす。すると、例のカッコいいゲートが奥に向かって円弧を描くように開いた。


「さあ、行こうか」

 足を踏み入れると、ゲートは自動的に閉まった。


 綺麗に刈られた緑の間を通り、入口の守衛さんに挨拶をして、城……じゃなくて、寮の中に入る。

 ロビーには、漆黒に輝くグランドピアノが展示され、優雅にもクラッシックが流れていた。


 どっかの高級ホテルか!!


「部屋の番号は?」

「ええと……、1001って書いてあります」

「1001!?」

 国定麗はひどく驚いたように、声を上げた。

「あの、この部屋には何が……?」

「い、いや……」

 彼は苦笑した。それから小さく呟く。

「他に部屋空いてなかったのかな……」


 ロビー奥のエレベーターに乗り、10階のボタンに触れた。どうやら10階がこの寮の最上階のようだ。

 チンという音と共に10階に辿り着き、エレベーターから降りる。


 赤い高級そうな絨毯が敷かれた静かな空間。それを歩いていくと、一つのドアがあった。それは、丁度廊下の中央に位置している。


 国定麗は緊張した面持ちで、〝1001〟のプレートが貼られたドアを三回ノックした。すると、返事もなく、突然ドアが開いた。


「あ、麗。何の用?」


 中から姿を現したのは、私服に着替えた藤堂雅だった。白いシャツの腕を捲り、薄い色のジーンズを穿いている。


 部屋から出てきた藤堂雅を見て、あたしは思い出す。


 お約束その二。主人公が男装して寮に入る場合、同室は相手役。


 あたしの顔が、にまぁと緩む。


 雅は、麗の隣にいる変顔のあたし(自覚はない)に気付き、一度、ヒィッ! という悲鳴を上げてドアを勢いよく閉め、鍵をかけた。ついでに、キーチェーンまでかけている音が聞こえる。


「…………………なんですか、今の」

「……さあ? あんなに怯えた雅、初めて見たな」


 あたしは目の前のドア以外に目を向け、一回転してから麗に話しかけた。


「あの、この階ってこの部屋しかないように見えますけど」

「ああ、この階は、藤堂雅専用の階だからね」

「は?」

 あたしは思わず首を傾げる。

「あれ、知らない? この寮って、藤堂グループの援助で建てられたものなんだよ」


 この城、藤堂グループの趣味かい!!


 そうツッコんでから、あたしは、ん? と首を捻った。


「あの……、この階は最上階なんですよね?」

「うん」

「この部屋って、この寮の中央に位置してます?」

「そうだよ」

「……まさかと思いますけど、この寮の天辺にあった中央のおっきなトンガリは、もしやこのお部屋でございますとか言っちゃう感じですか?」

「う、うん……、言っちゃう感じです……」


 はい、解決しました。この城の中央のトンガリは、自分の部屋でした。

 あたしは、脱力しながらその場に跪く。


「フフ、フフフフ……」


 面白い……、面白すぎる!! まさか、あのトンガリが自分の部屋だなんて!!

 麗は若干顔を引きつらせながら、あたしから一歩離れた。


「あの……、じゃあ部屋には案内したってことで、俺はこの辺で……」


 麗はそのまま振り返ることもなく、エレベーターに乗り込み、姿を消した。

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