第28話
「ねぇ昴先輩、オレたち男女ペアとして出席してもいいですよね!?」
港がわざわざ二年の教室にやって来て、昴を捉まえる。渚は港の隣にくっついていた。
「……お前ら、どっちかが女装するって言ってんの?」
「はい。僕が女装します」
渚は小さく手を上げた。昴は大きく溜息をついて、額に手を当てる。
「何で? クラスの女子でも何でも連れて行けばいいだろ?」
「だってオレって孤高の男だから!」
港の台詞に、意味不明という視線を送っていると、渚がそれを察して解説を入れる。
「港が何を言いたいかというと、パーティーに誘えるくらい仲のいい女の子の友達がいないってことです。つまり孤高じゃなくて、ただの孤独なんです」
「ちょっと渚! そんなにハッキリ言わなくても……!」
「それと、これは僕個人の意見ですけど――」
渚の次の言葉に昴は耳を傾ける。
「そっちの方が楽しそうじゃないですか」
確かに。
「分かった。いいよ、渚女装して。その代わり、男だってバレないくらいクオリティ高くないと許さねぇからな」
「ラジャーです」
二人は一つ上の階の自分たちの教室へと戻って行った。
「どうしたの、昴」
流は廊下に立ち尽くしたまま笑みを浮かべている昴を見て、不思議そうに声をかける。
「今回の余興、いつも通り俺は高みの見物でもしてようと思ってたんだけど、気が変わった。俺も参加することにする」
昴は制服のポケットから携帯を取り出した。
「昴が参加するって言う日が来るなんて思わなかったな。でも、参加するにしても、相手は誰誘うつもり?」
「ちょっと心当たりがあってね」
昴は携帯の通話ボタンを押して、端末を耳に押し当てた。
*
寮に戻り、エレベーターの中で溜息をつくあたし。
『パーティーに参加する女の子がいたら、俺がまずその子にパーティーの相手として選んでもらえるように頼んでるっつーの!』
中庭掃除の時に隼から言われた言葉だ。
確かにその通りだ。隼、パーティー出たがってたもんな……。
麗さんはもうパートナーが決まっているらしい。奏は家族総出で音楽を披露するそうで、通常の招待状というわけではなく、出演依頼という形で手紙が届いているらしい。
あー、じゃあ誰に当たろうかな、と考えながら、エレベーターを降りて一〇〇一のドアを開けた。
「ただいまー」
中に入ると、ソファに腰かけ、洋楽を聴いている雅が見えた。
今日は雅の方があたしより早いお帰りです。それもそのはず。中庭掃除をしているはずが焼き芋を作っていたので、先生にこっぴどく怒られましてございます。あたしは正直無関係ですが、班の連帯責任だそうです。
あたしは遠慮がちに雅の隣に腰かけ、雅を見つめる。
「……あのさ、雅。漣ホールディングスのパーティー参加するよね? 相手って桜子さん誘う予定……?」
なるべく今まで通りに接しようと思っているが、どうしても躊躇ってしまう。
雅はあたしを一瞥してから答えた。
「ああ。許嫁なんだし、きっとそうするんだろうな」
ズキンと心臓に何かが刺さったような感覚がした。予想通りの答えなのに、やっぱり本人から直接それを聞くとダメージが大きい。
「そ、そうだよね! ごめん、変なこと聞いちゃって」
あたしが自分の表情を誤魔化そうと必死になっていると、ズボンが急に振動した。ポケットに手を突っ込み、携帯を取り出すと知らない番号から着信が。
誰……?
とりあえず、通話ボタンを押す。
「もしもし……?」
『あ、遥チャン? 俺俺!』
「その呼び方をしてくるのは……昴だね。とりあえず、その詐欺っぽい通話止めよう?」
あたしはソファから立ち上がって、何となく自分の部屋に移った。
『ところでさ、漣ホールディングス主催のパーティー出たくない?』
「出たい! けど、それより何でおれの番号知ってんの……?」
『え、俺超能力者だもん。知ってるに決まってんじゃん』
「マジで!?」
『……そんなわけねぇだろ』
何だ。二次元だから本気で信じるところだったよ。
『合宿中シャワー浴びてる時に携帯置いてあったから一応登録しといただけ』
個人情報勝手に取得したってことだよね? それって犯罪なんじゃないの?
『で、パーティー出たいんだろ?』
「出たい!! もう何が何でも出たい!!」
『へぇ。そんなに出たいんだ』
何だか昴の声のトーンが一段階下がった気がした。これは何か良からぬことを企んでいる模様。
『そこまで言うなら出してあげないこともないけど』
「ホントに!?」
『ホントに。ただし、条件がある』
「条件?」
『スリーサイズは?』
「は?」
『どうせ寸胴なんだろうけど、一応参考までにね』
失礼なこと言いやがる! と思いつつも、返答できない。
「何でそんなの昴に教えなきゃならないの」
『え、何? パーティーに出なくていいの? そっかそっか分かった。じゃあまたねー』
「おいコラッ! 勝手に電話切ろうとすんなよ!! スリーサイズなんて測ったことないから分かんないよ!」
『……今から俺の言う所に来い。来なかったらパーティーには出さない。いいか、一度しか言わねぇからな』
「ちょ、ちょっと待って!」
あたしはペンとメモ帳を探して、携帯を左に持ち替えた。そして、昴の言った場所を必死にメモする。
『そこからだと三十分以内で着くはずだ。今は五時半だから、六時までにそこへ来い。遅刻したら何か奢れよ』
「え、ちょっと、おれ地図とか住所とか読むの苦手――」
携帯からは、ツーツーという空しい音が響くのみ。
「くっそ――!!」
昴の金持ちなんぞに奢って堪るか!
あたしは住所とちょっとした地図らしき絵が描かれたメモ帳を握りしめ、自室を飛び出した。
「今の電話って昴?」
「う、うん」
雅が話しかけるが、急いで玄関へ向かうあたしは一瞥もくれずに質問に答えるのみ。
「……お前ら、随分と仲良かったんだな」
「え?」
今の雅の台詞に、思わずあたしは振り向いた。あたしのこと気に掛けてくれてる……?
「……あんなことされたのに、よく平気で話せるよな」
「…………………」
ああ、そっちか。あたしはローファーに足を滑り込ませ、自嘲気味に言葉を漏らした。
「……平気じゃないよ。こっちだって必死なんだよ! 雅に何が分かるって言うんだよ!!」
瞳がじわりと湿る。あたしは捨て台詞を残して、ドアをバタンと閉めて寮を飛び出した。




