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二次元コンプレックス  作者:
第五章 「パーティーは余興が命」
27/42

第26話

 あたしは思う。何かおかしい。


 結構前に読んだとはいえ、大筋やメインキャラくらいは憶えているはず。それにもかかわらず、重要な部分はほとんど思い出せない。言われて明らかになって初めて、そういえばそういう内容だったな、そういうキャラ設定だったな、等と思い出すのである。


 かといって、全てが思い出せないわけではない。雅を不良から助けた時も必死に思い出して彼が廃工場にいると分かったし、西條遥が女だとバレるのも合宿中だと憶えていた。


 そこまで考えて、あたしはある一つの仮定を導き出す。


 原作の大筋から大幅にずれない程度に、本物の西條遥をあたし自身が体験しているのかもしれない。思い出さないと大きく話がずれてしまったりしそうな時は、思い出そうとする行為によって原作の内容を思い出すことができたり、そもそも忘却したりしていることがない。だけど、いくら思い出そうとしても、その場で思い出さなくてもその後の展開に影響がない場合は思い出せない、ブロックがかかっているのではないだろうか。


 西條遥が女だとバレるタイミングを憶えていたのは、覚悟しろって意味だったのか? それとも西條遥が女だとバレて雅と結ばれるというファンメモの大前提の部分だったからなのか。


 あたしは中庭で箒を持ったまま静止していた。今日あたしの班は中庭の掃除当番である。


 あたしが女だと大々的にバレてから一週間が経つ。しかし、雅の行動に変化は見られなかった。いや、ちょっと余所余所しく感じることが多くなったか。雅なりに気を使っているのかもしれない。


 あの後、あたしはきっと人として最低なことをした。雅にあたしが女であることをみんなに黙っておいてほしいと、脱いだ制服のポケットの中から〝絶対何でも言うこと聞きますよ☆券〟を取り出したのだ。雅は静かに「分かった」と言った。その時の雅の落胆したような、切なそうな、何とも言えない表情が頭から離れない。そんな券なんて使わなくても、雅がみんなに言わないことくらい分かってたのに……。寧ろその券を使うべき相手は昴だったのではないかと今では思う。彼はあたしが取り出した券を見て抱腹絶倒。ヒーヒー言いながら、脱衣所を出て行った。


「遥、魔法使いにでもなるつもりか?」

「え?」


 あたしは隼に言われて初めて自分が箒に跨って中庭の中央に立っていることに気付いた。さっきまでは確かに普通に箒を持って掃除をしている風を装っていたはずなのだが。魔法使いにでもなりたい願望があるのかもしれない。


「魔法使いで思い出したけど、また出たらしいぜ」

「何が?」

 あたしは今度こそ箒でさっさと掃きながら隼に訊ねる。

「怪盗だよ」

「怪盗!?」

「知らねーの!? 漆黒の闇〝ダークネス〟だよ!」

「漆黒の闇〝ダークネス〟……。で、その漆黒の闇〝ダークネス〟さんは一体何を盗むわけ?」

「俺も詳しくは分かんねぇんだけど、違法的に手に入れた宝石とかお金とか? 昔はちょいちょい世間を騒がせてたんだけど、最近また現れたんだってよ! 神出鬼没だから、ダークネスを目撃する奴も少ないんだ。黒のコートに身を包み、ビルからビルへ飛び移る! 幼い頃に偶然見たことあるんだけど、そりゃもうヒーローって感じでカッコ良くて、俺の憧れの存在だぜっ!」

「へぇ……」


 この世界に怪盗さんなんていたんだ……、と苦笑。


「あ! 今度は最近って単語で思い出したけど――」

 隼って引出沢山あるな、と感心。

「漣ホールディングスのパーティーの招待状が届いたみたいだぜ。何でも今年はペア参加だとか」

「ペア参加?」

「おう。俺もよく分かんねぇんだけど、男女ペアらしいぜ? 招待された人が参加する場合は、招待された人、されてない人にかかわらずペアを見つけて連れて行く。どうやら今年の余興に関係あるらしい」

「へぇ」


 あたしは地面に広がる落ち葉を掻き集めながら、軽く溜息をついた。


 きっと雅は桜子さんと参加するんだろうな……。


「ん? ちょっと待って。隼は招待されてないの? さっき招待状が届いたらしいって……」

 隼はあたしの質問に、動かしていた手をぴたりと止めて項垂れる。

「そうなんだよ……。招待状は親父宛に届いてんだけど、今年はその日学会でイギリスに行く予定が入ってるらしくて。親が不参加なら当然子も不参加。めっちゃ行きたかったのに、かなり残念……」

「で、でもどこかの御令嬢が隼を呼んでくれるかもしれないじゃん」

 肩を竦める隼の背中をぽんぽんと撫でて慰める。


「あれ? 雅?」

 隼がふと頭を上げる。あたしも彼の言葉に反応してすぐに見上げる。二階の窓から雅がこちらを覗いていた。一瞬目が合った気がしたが、すぐに姿を消してしまった。

「何でこっち見てたんだろうなー?」

 隼はそう言ってから、こんなに落ち葉あったら焼き芋できんのになー、と箒をちゃかちゃかと動かした。


 あたしを見ていた?


 一瞬そんな思考が過って、あたしは恥ずかしくなった。『女だと思いたくない』とまで言ったあたしを雅が気に留めるはずない。きっとさっきのは勘違いだ。


 はぁ――、と息を吐いた直後、一つのヤバすぎる事項を思い出し、まるで雷に打たれたかのような衝撃を脳に受けた。


 西條遥が、藤堂家の贈賄事件が噂に過ぎないことを突き止めたのが、漣ホールディングスのパーティー。ということは、あたしは何が何でもそのパーティーに出席しなくてはならない。西條遥は雅に女だとバレて時間が経っていたせいか、雅とペアで出席していたはず。だがしかし、あたしは誰と参加すればいい……?


 チーン。


「隼!!」


 掻き集めた落ち葉に火を点け、どこからか手に入れたサツマイモを放り投げて、班のみんなでその場を取り囲んでいる隼の両肩をがっしりと掴んだ。


「ヒィ!」


 血走った目をして走って来たあたしに、隼は思わず悲鳴を上げる。


「パーティーに参加する女の子を紹介してくれ!」

「と、突然、どうしたんだよ……?」

「おれもそのパーティーに出たい!!」


 あたしは隼の肩を掴む両手に力を込めて、彼に詰め寄ったのだった。

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