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二次元コンプレックス  作者:
第四章 「学園祭ですよ、お嬢様」
18/42

第17話

 今日は午前授業で終わりだったので即寮に戻ってゴロゴロしていようと思っていた矢先、大原先生から呼び出しを喰らった。


「何ですか?」

 あたしは教卓を挟んで先生の前に立つ。

「西條くんは一学期の途中で転入してきたんですよ。だから、身体測定受けてないんですよ。なので今からちゃっちゃと受けてきちゃって来て下さいよ」

「………………」


 身体測定!? それって絶体絶命のピンチなんじゃないの!?


「というわけなので、今すぐ保健室に向かって下さいよ」

 尻込みするあたしを何故か半強制的に教室から追い出し、大原先生はぴしゃりとドアを閉めた。


 一体何なんだ……!?


 保健室といえば、今日から月影朔夜の担当領域ではないか。


 ヤバい、という単語が脳内を逼迫する。


 西條遥も身体測定があったはず。それをどうやって乗り切ったのか。あたしはそれを必死に思い出そうと頭をフル回転。


 あの時は確か――、内診をする際に佐藤先生が西條遥にワイシャツを脱ぐように指示し、彼女は言われるままボタンを上から外していった。そして中を覗くと――、CIAの技術を結集させて作ったとかいう超高性能薄型男性ボディ(装着用)が現れました、という話だった気がする。


 心音拡大、青ざめる顔。


 あたし、そんなの支給されてませんけど――――っ!?


 三次元でもあまり青ざめるとか経験したことないのに、二次元(このせかい)に来てから何度血の気の引く感覚を味わったことか。結構ココってデンジャラス アンド エキサイティングな世界なんですね。


 まあ、とにもかくにも今日は寮に戻って作戦を練って明日身体測定に挑めばいい。必要があれば何とかCIAの人と連絡を取る手段を見つけて、助けを求めてもいい。


 そんなことを考え、あたしは下駄箱へ向かった。廊下を進み、階段を下りる。そこであたしの足は自動的に停止し、瞳は無意識のうちにある標的に固定されて動かなくなった。


「ゲ……」

 思わず口を突いて出た音は、あまりにも陳腐なものだった。


 あたしより八段下の階段にいる相手はこちらを真っ直ぐに見据えている。


「西條、君は今日身体測定のはずだが? 保健室はこちらとは方向が違うが、どこへ行こうとしている?」


 月影朔夜だ。やはり白衣の両ポケットに手を突っ込み、やる気ゼロオーラを纏っている。


「せ、先生こそ、こんな所で何やってるんですか? 保健室に常駐してなくていいんですか?」


 朔夜は、はーっと溜息をついて胸ポケットから煙草のカートンを取り出した。


「外に吸いに行ってたんだ。今は禁煙ってうるさいからな。それに、常駐と言ったってずっと保健室にいなくてはならないわけではないだろう。私はトイレにも行けないのか?」

「いや、そんなことはないと思いますけど……」


 何だかこいつと話していると、自分のペースが崩される気がする。


「保健室へは高校棟一階の渡り廊下を通り管理棟へ行くのが早いが、折角高校棟に来たので君を迎えに行こうと思ったんだ。まだ君が保健室に来ていない気がしてね」

「…………………」

「ちょうどタイミングも良かったようだ。こうして君を見つけることができたのだからな。――さて、では保健室へ向かうとするか」

 朔夜は身を翻し階段を下りる。


 あたしは唾を呑み込んだ。


 どうする、このまま遠回りして逃げるか。……いや、下駄箱で待ち伏せされていたら外に出られない。窓から上履きのまま抜け出すか?


 暫し立ち止まり思考を回転させている最中、朔夜は体を捻り、階段を下りてくる気配のないあたしを一瞥。彼女の瞳がすうっと細くなる。


「逃げても構わないが、君の秘密はバラさせてもらうぞ?」


「――――――――――――っ!!」


 鼓動が全身に伝い、脈打つ心音が脳に直接振動する。


 一体どういうこと……? 秘密? あたしが性別を偽って男子校に通ってること? それともCIAの諜報員ってこと!?


 諜報員の仕事なんてしたことないんだからバレるも何もないか、と思い、やはり女子が男子校に通っている秘密のことだろうと結論付けて、それでも相手の言っている〝秘密〟が分からない以上ハッタリをかましていることもあるわけで、そう考えるとここで黙って付いて行ったら肯定することになる。以上のことを考慮して、あたしはシラを切る選択をしてみる。


「秘密? 何ですかそれ。おれは秘密なんて持ってませんよ。――あ、エロ本をベッドの下に隠してるとか、そういうことですか? 確かにそういう月並みの秘密ならありますけど、そんなの思春期の男なら誰でもやってることでしょ。そんなのバラされたって痛くも痒くもありませんよ。バラしたきゃ勝手にバラしていいですよ」


 余裕もないのに余裕あるフリをして、貧困な想像力でまくし立ててみるあたし。


「……そうか」


 彼女の呟く一言に、あたしはやり過ごせたとほっと胸を撫で下ろす。だが、それが間違いであることはすぐに証明された。


 朔夜は口角を微妙に上げ、可笑しさを押し殺すように額に片手を当てた。


「それでは本人の希望通り、秘密をバラさせてもらうことにする。君がオン――」

「ストップストップスト――ップ!!」


 ダダダダダと物凄い速さで階段を駆け下り、朔夜の口を両手で塞いだ。


「い、行きます! 大人しく保健室行きますから、そのことは口外しないで下さい!! ね!?」


 あたしの反応に満足したように、月影朔夜は不敵な笑みを形成していた。

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