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二次元コンプレックス  作者:
第三章 「未知なるキノコ探します」
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第11話

 夏です! 海です! サ○ーランドです!!

 ……というわけではなく、森です。避暑地です。ちょっと小川が流れています。


 あたしは、目の前に佇むウッディーでお洒落で涼しげな別荘を見上げた。


「どんだけデカいんだよ」


 今日、あたしは王子部の合宿で、奏の別荘に来ています。他のメンバーの別荘でも良かったんだけど、奏が音楽の練習をするから防音対策バッチリの部屋があった方がいいということで、彼の家の別荘で合宿をすることになったのです。


 奏に案内されて、別荘の中へ。


 廊下の幅は広く、天井も高い。床にはアジアンなラグが敷かれてあり、かなりお洒落。ザ・別荘という感じ。きっと部屋の天井には、プロペラみたいに回る空調が設置されてるんだろうな。


 入口には、小さなモノクルをかけたご老人が。背筋はぴんと真っ直ぐで、穏やかな笑顔が癒しを与える。


「この別荘を管理してくれている響家の執事さんで、静音(しずね)紳一郎(しんいちろう)さん。僕は、紳爺(しんじい)と呼んでます」

 奏に紹介され、紳爺は一礼した。あたしたちも頭を下げる。

「初めまして。響家に四十年仕えております、執事の静音と申します。坊ちゃま方がこの別荘にお泊りの間、お世話をさせていただきます。どうぞ宜しくお願い致します」


 紳爺は別荘内を案内してくれた。一階は、やはり天井にプロペラが回る広い共有スペース。テレビやソファ、キッチンも備え付けの、いわばダイニングルームだ。その他、檜風呂やトイレ、奏専用の防音ルームを見せてくれた。漆黒のグランドピアノが置かれ、棚には様々な楽譜やら音楽書やらがぎっしりと詰まっていた。入口近くの階段を上り二階へ行くと、客室が現れた。一人一部屋宛がわれ、ふかふかのダブルベッド、ログチェア、テーブル。ベランダに出れば、青空と若草色の草原、深緑の森、日光がきらりと光る小川と、自然の織り成す絶景が広がっていた。


 一通り別荘の案内が終わり、あたしは口角を上げた。


 フフフ……、来たわ。ついにこの時が……!


 合宿といえば、二十四時間行動を共にする鉄板イベント! 更に、今回は別荘。ともなると、学校の修学旅行と違ってモブキャラはいない!! それに――確か〝西條遥〟が雅に女だとバレたのは王子部合宿だったはず。ベタなネタだが、ふとした拍子に雅が転び、偶々彼女の胸に手が触れてしまいバレてしまう。殿方に胸なんて触られたことないけど、雅様ならどんとこいだわ……!!


「……ウフフ、ウフッ」


 その時、雅は背筋に悪寒が走ったが、それをあたしが知る由もない。


 一階に下り、玄関の前で紳爺は止まった。


「皆さん、お昼はまだですよね? 本日は天気もいいので、外でバーベキューなど如何でしょうか?」

「おっ! いいな、バーベキュー! 肉食いまくるぜ」

 隼がノリノリで外に出る。それを見て、奏は紳爺に頷いた。

「畏まりました。すぐに準備致しますので、少々お待ち下さいませ」



 数分後――。


「……何か違くね?」


 ジュージューという音と共に、お肉のいい匂いが漂う。それはいい。だが、それを焼いている人物がおかしい。紳爺はじめ響家の執事たちが、せっせと肉やら野菜やらを焼いている。汗水垂らして焼いた絶妙な焼き加減のお肉を、パラソルの元でログチェアに涼やかに座っている王子部員の元へと運ぶ。そして、お皿をテーブルに置くのと同時に、お肉たちは彼らの胃へと姿を消した。瞬時に空になった皿を持って、執事たちは再び鉄板の元へと戻って行く。この行動の繰り返し。麗だけは、手伝います、と鉄板付近をうろうろしているが、執事たちに、困ります、と追い返されていた。


「おい! お前らただ食ってないで、執事さんたち手伝おうとか思わねぇのかよ!?」


 あたしがログチェアから勢いよく立ち上がる。雅がお肉を口の中へ放り込みながら、あたしを一瞥。


「肉焼くのとか、普通執事の仕事だろ。現に、麗は邪魔だって言われてるし、手伝いたいならお前一人で手伝って来いよ」


 あたしは拳を力強く握りしめ、体を震わせた。


「バーベキューっていうのは……、共同作業なんだ――――っ!!」


 テーブルを逆さにする勢いであたしは叫んだ。肉を口に銜えようとしていた隼が一瞬体を強張らせ、箸からそれがするりと落ちる。


 ジュージューと肉の焼ける音しか聞こえない。執事も含め、全員があたしに注目する。


「バーベキューっていうのは、みんなで器具を組み立てて、みんなで焼いて、みんなで食べて、みんなで片付けて……っていう、みんなが仲良くなる一種のイベントなんだよ! それが何だ!? 麗先輩以外、みんなして悠長に構えて!」


 あたしは自分の妄想を彼らに押しつけた後、急に表情を変え、にやりとした。


「ははーん、おれ分かっちゃった。あんたら、さてはバーベキューやったことないんだろ? だからやり方も分からないんだ。なるほどなるほど。それは仕方ないよなぁ。だって、大切に大切に育てられたお坊ちゃん方は、そんなこと執事様がやってくれたんだもんねぇ?」


 腕を組んで得意げに話し、言い終わった後目を開けて後悔した。雅が物凄い勢いであたしを睨み付けている。


「……お前、よくそこまで言えたもんだなぁ?」

「ヒィッ!」

 思わず悲鳴が漏れる。

「その勝負受けてやるよ」

 え……?

「あの……、勝負って?」

「俺たちがバーベキューできるかどうか、だよ。もしできたら、お前この合宿中俺たちの言うこと何でも聞けよ? 煮るなり焼くなり可愛がってやるぜ?」

「ヒィッ!!」

 ヤバい展開になってきた……。

「……あのー、もしできなかったら……?」

 雅は弱々しく訊ねるあたしを見て嘲笑する。

「そんなことは有り得ない。よって、考える必要もない。愚問だな」

「…………………」


 勝つ気満々じゃないですか。つーか、煮るなり焼くなりって、あたし相当ヤバくない?


「お前の言葉を踏襲すると、バーベキューは機材組み立てから始めるべきだから、明日の昼、俺たち四人がお前にバーベキューを振る舞ってやるよ。明日の昼までの平和な時間をせいぜい楽しんでおくんだな」


 にやりと笑う雅の顔が恐ろしい。蛇に睨まれた蛙。もうヤダ。

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