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その黒いものを何とかしてください

作者: akiyama

いつだって明るくて親切が売りの人気者が今日は朝から様子がおかしすぎた。

 曇りの日の太陽は、あまり眩しくはない。

 晴れた日だったら、眩しくて目視することが不可能な太陽。

 でも重く雲に包むように覆われてしまうと、やけにキラキラした白い月にも見えるから不思議。

 そして、そんな曇りの日の太陽に似ていると思われるのが、現在の洞院日光である。

 


 名前に負けていないキラキラしたイケメンで、陽気な性格は誰にでも好かれる。

 ただし、通常運転の場合ならと付け加えたい。


 今、現在は、非常事態が起こっている。

 あの、キラキラして学校で一番のモテ男である日光君がくすんでいる。

 丁度、今日の天気と同じように目視できるくらいには。

 


 どういうわけか、朝からどんよりとして周囲に黒いオーラを撒き散らしていた。

 すでに環境汚染の域に達していて席が近い生徒は顔色が悪い。

 男子は興味深そうに。女子は心配そうだ。

 


 黒いオーラを巻かれながらも隙あらば傍によろうと画策しているものが数人。人気者はすごいね。

 さて、どうしたものか。誰ぞ勇者が出てきて事情を聞いてもらえないだろうか。と考えているのはクラスの全員。

 


 日光君の席は教室の真ん中にあるので、嫌でも注目が集まる。授業が始まる数分前というところでやっと勇者が現れたよ。

 


 日光君の親友にして幼馴染の男子の兵藤だった。

 日光君がキラキライケメン王子様タイプならば、兵藤は少々カテゴリーが違うイケメンである。

 成績は悪くないのだが、先生や風紀委員の注意を受けない程度に着崩した制服で飄々としている。

 

 誰とでも仲が良さそうだけど、本当に仲が良いのは数人だけ。何ともつかみどころがない。

 まあ、そんなところが良いという上級生の女子にはモテまくり。

 


 モテない男子からはよく、爆ぜろと?

 そんな兵藤は、いつも遅刻ギリギリでくるのだ。

 


 「日光?」近づいていくと何やらボソボソと答えられたようだが。

 

 「ふうん」 だの「なるほど」とか「ああ」相槌をうつだけ。

 

 完全に二人だけの世界。

 クラス全員が、興味津々で聞き耳をたてた。それはもう必死に。

 


 いつの間にか先生が来ていた。

 出席を取り始めた先生を唐突に止めて、日光君の体調が悪いことを理由に保健室に行くことを告げる。

 何故か、一傍観者だった私を巻き添えにして。

 


 「柿崎、お前保健委員だから」


 あら、そうでした。では行きましょうか。揃って保健室へと。

 そして、是非、お話をたっぷりと聞かせていただきましょう。

 でないと、このあと、女子全員の恨みを買ってしまう私に救いがないものね。

 二人のイケメンと保健室で一緒?クラスの女子だけでなくなりそうな予感。

 でも、まあしかし。女子生徒全員から恨まれたらキツイが、おそらく気にしないのが柿崎こよりである。



 それでも、一応は真面目な顔を作るのは忘れない。

 三つ編みメガネで、優等生という評判はこういう時に役立てないと。

 恋愛に興味を持たない。どんなイケメンを相手にしても他とまったく同じ対応。

 こういった涙ぐましい努力の甲斐あって私は、女子にも男子にもブレない好感を持たれるに至った。

 


 どこぞの政治家のごとく誰にでも愛想を振りまいたわけじゃない。

 逆に誰にでも無愛想、でもなぜか親切。という謎が多いが成績は良い保健委員という位置。

 将来は医師を目指しているというスタンスは、教師一同にも一目を置かれ信頼度はバツグン。

 今日のように養護教諭が講習のための不在の日には、よく頼まれる。

 簡単な応急処置くらいならお手の物。でも日光君の場合はどんな処置を?

 


 「とりあえず、熱でも測る?日光君、口を大きく開いてあーんってして」扁桃腺でも腫れているのかな。


 私が、日光君のおでこに手をあてて話しかけると青ざめていた顔が真っ赤?

 

 「あら?顔色が……やっぱり熱を測っときましょ」私が素早く立ち上がって体温計を引き出しを開けて探していると、兵藤の飄々とした声がする。

 

 「日光~~、さっさと肝心の用事を果たせ!」

 


 おや、兵藤が日光君を煽っている?

 


 「俺は、どこかで時間を潰しているから、上手くやれよ!」

 


 妙なことを言うものだと見てみると、兵藤はすでに保健室を出た後で。外から鍵までも。

 ここまでされると、冷静を常に心がけている私も持たなざるを得ない。危機感というやつを。

 

 清潔だが二人の他には誰もいない室内。さらにベッドがあり、私は女子で彼は男子。

 子羊と狼といった方がわかりやすかろうか。

 

 保健室内部にて妙な緊迫感がみなぎる。

 

 「あの柿崎……さん。あの話を聞いて欲しいんだけど……」

 「話し?そうね。まずは話し合いが大事よね。話しましょう。私たち言葉を有する人類ですもの?」

 一見和やかな会話に聞こえるかもしれないが、私たちの間には実はそんなものはかけらもない。

 私の手には、防衛の武器として指示棒が握られている。思い出した。昨日の話しといえば。

 

 養護教諭が、たまに行う健康のための講習時にでも使っていたのだろう。今の私には格好の武器である。

 


 「昨日のことなんだけど」

 

 「ええ昨日のことね?」

 

 「うん、時期尚早だったって兵藤にも言われて気づいたんだ。いくらなんでも気が早かったかなって」

 

 「ああ、あの夕方聞かせてくれた謎の多いスピーチのこと?気にしていないわよ」

 

 「気にしていない?スピーチって、あれは一世一代の意志表示だったんだけど」

 

 ふぅん。と気のない返事を返している私に詰め寄ってくるのはやめて。

 

 何だか、朝の日光君の三割増しくらいの黒い何かを背負いながら向かってくる。さっきまでの憔悴っぷりとはまた違う。黒い……。

 


 何だろう、何でかな?ものすごく怖すぎて声も出せないし動かない足を何とか後ろに引いてドアまでたどり着く。

 

 「こっち寄らないで!」大きな声も出せず、静かに威嚇する。



 金属と金属がぶつかり合う音がしたかと思ったら背後のドアが唐突に開けられた。

 


 「タイムリミットだ。日光。もうすぐ鐘がなる」

 

 「……仁志。どうせならもう少し後できて欲しかった」いつの間にか明るい日光くんに戻っている。


 良かった助かったと思いながら、差し伸べてくれる手に掴まる。思ったより強い引きに日光君の胸元に倒れ込む私。耳元で囁かれる。



 今日のところは見逃してあげる。耳に残された言葉に驚いて顔を上げた頃には、親切で明るい日光君の顔になっていた。

 私は、今更ながら昨日のことを記憶を反芻する。

 


 「カキザキサンのカラダヲトロケサセタイ、スイツキタイ」

 


 どうしても漢字変換できなかった。意味不明だし。太陽のごとく明るいアイドルの言う内容ではない気がするし。キラキラスマイルから想像したくないし。否一切関わりたくないし、ということで昨日は聞こえなかったふり、理解不可能なフリを装って逃げた。

 逃げた私はそれほどひどくないはず。



 

 

日光、お前。言葉は選ばなきゃ。いくらなんでもストレート過ぎるのってどうなの。

仁志、僕も好きな相手の前だとあがってしまうんだ。

       

  こよりに逃げられた後の二人の会話です。

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