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無意味(ナンセンス)コメディシリーズ

想像力豊か物語


 想像りょく〜〜〜……。




 柊ゆいは、頭の良い子でした。


 だから授業中、先生の話をちっとも聞いていなくても、へっちゃらです。一応、先生の言葉は耳を通過しています。ええ、通過しているだけ。右から左、もしくは左から右のどちらか一方通行に通過して抜けていくだけで全然、頭の中にとどまってはいませんが。


「柊ゆい。この問3を答えなさい」

と、先生が、ぼ〜〜っとしているゆいを当ててみます。当てられたゆいは、ゆっくりと、マイペースで起立し、耳の中を通過しそうになった先生の言葉を止め、目の前の黒板に書かれていた問3の問題を見ながら……チャカチャカチャカ!っと計算して、

「x=3……」

と、ボソッと答えます。そしてすぐに「あ……」と忘れていたように、

「です」

と、付け加えて言いました。


「……よろしい。座りなさい」

 何か言いたげな先生の顔ですが、そう言うと後ろをプイと向いて答えを書き解説しつつ、授業を再開し始めました。


 ゆいはまた、ゆっくりと、腰を下ろします。


(先生……頭が、お好み焼きだぁ〜……)


 お好み焼き…………。


『水溶きした小麦粉にエビ・イカ・肉・野菜などの好みの材料を混ぜ、鉄板の上で焼きながら食べるもの。ソースやマヨネーズで味をつけ、青のりや、かつお節などを振りかける。(作者調べ)』


 先生の、クセって茶がかった老毛は、かつお節? ハゲの部分はソース色? テカリは、マヨ? ほんまにそう見えたんかい?? と。


 ……察するに。後ろを向いた先生の頭がお好みのソレに見えた、ということは。

 ゆいは、お腹がすいていた! という事で、納得してあげてください。



 ゆいの学校には食堂がありました。さっき、お好み焼きの事を考えていたのでお好み焼きが食べたくなっていました。ところが、食堂のメニューには無かったので、代わりにあったたこ焼きを食べる事にしました。

 受け取ったたこ焼き8個。冷凍チンものですが、上にのっているかつお節は湯気でユラユラと揺れています。

「先生、おいしそぉ〜〜……」

 たまたま聞いていた隣にいる友人は、ギョッとしました。

 そして、何も聞かなかった事にしました。



 その日の夜。ゆいの自宅にて。ゆいの今夜の晩御飯はハンバーグでした。ご飯を食べながら、TVのニュースを食卓で家族で観ていました。すると。


『今日未明、○○県××市の高校で、この高校の教師、熊田国男さん(51)が、頭から血を流して倒れている所を生徒が発見し、すぐに病院へ運ばれましたが間もなく死亡しました』


 そんなニュースが流れます。


「……これって、ゆいの高校じゃない! ……まあ!」


 ニュースキャスターの声と、母親の声がかぶりました。ゆいは箸でご飯をつまみながら、流れていくニュース映像を ぼーっと観ていました。「……数学の先生だぁ〜〜」と、のんきに答えます。

「大変、大変! 後で高田さんの奥さんに電話してみようかしら。何か知っているかも」

と、母親は、そそくさとご飯を食べ始めます。

 ゆいは、ハンバーグにデミグラスソースを た〜っぷり かけました。

「先生の頭…………」

 先生の頭がハンバーグなんでしょうか。そしてソースが血なんですか?

「ぱくっ」

 そして食べるんですね。ためらいもなく。

「だってハンバーグはハンバーグだしぃ〜〜」

 そうですね。ハンバーグが×××だったら、ややこしいですもんね。



 2、3日学校は休みになりましたが、4日目から授業は再開し始めました。お昼になったので、ゆいは友達と食堂に行きました。事件の影響もあったのか、あまり食堂に生徒の姿がありません。ゆいは、ざっと貼ってあるメニュー書き一覧を眺め、ある事に気がつきました。


「あれ? たこ焼きが無い……」


 前には、あって食べたはずの、たこ焼きがありません。無くなってしまったのでしょうか? それにしても。

「……???」

 メニュー内容がよくよく見ると、減っています。確か「ハンバーグ」や「オムライス」も、あったはず。おやつメニューも減っているような気がします。「チキンナゲット」「アメリカンドック」などが、消えています。


「ゆいぃ、決めたぁ?」

「あ、うん……」


 友達とゆいは2人とも、ラーメンを注文しました。そしてそれができてから、カウンターに取りに行き、側にあった七味をラーメンにかけた時。ゆいはラーメンを見つめながら、向こう側に居た食堂のおばちゃんに何となく思い浮かんだのでフッと、聞きました。


「ケチャップは、無いの?」


 振り向いたおばちゃんは一瞬、すごい形相でそのままゆいを見つめました。「ラ、ラ、ラ、ラーメンに、かけるのかい? か、か、か、変わっているね、アンタ。ざざざ残念だけど、いいい今、切らしていてねっ」


 明らかに、動揺しています。汗が額いっぱいに、にじんでいます。


「ゆいー、どうしたの?」

「じゃあ、ソース。ここに無いね」

「ヒィッ!」


 友達の呼びかけには答えず、ゆいは食堂のおばちゃんに、どうやらトドメをさしたようです。おばちゃんは金切り声を上げて、その場にうずくまってしまいました。「あいつが悪いのよおおおおおおおお! あああ、殺すつもりなんて、なんて! 頭から、血が、血が、ドロドロがあぁ!」


 ……自分で暴露しています。へー、そうだったんですか。あらら。



 その日の午後の授業中、校門からパトカーが何台か走り去って行くのを、ゆいは教室の窓越しに見下ろしていました。この教室の隅っこの席は外の景色が見渡せるのですが、ゆいの想像力は終わりのない無限の空のように、どこまでも広がっていくのです……。


「柊ゆい。この文の和訳をしなさい」

と、ゆいは先生に当てられました。ゆっくりと起立して、「彼は、豚よりも劣っている」と答えました。

「よろしい。座りなさい」先生にそう言われ、ゆいは、また、ゆっくりと着席しました。


(先生、顔が豚だぁ…………)


 ……はぁ、今度は顔が豚ですか。明日のランチは豚丼にしますか。


(豚丼に、紅しょうが、た〜〜っぷり…………)


 ……また血みどろにするんですかね?



《END》




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― 新着の感想 ―
[一言] 独特なアイデアだな〜と思いながら読ませて貰いました。 かなりアクのある作品ですけど、間延び調のほんわかした文体で上手く隠してますね。内容のわりに読後感は悪くなかったです。 もう少し動機めい…
[一言]  お好み焼きに見える頭ってどんな頭?!  なかなかない発想。でも、そういう頭の人って、いそうな感じ。そこが笑えます。  とはいえ、今回の話は、死を安直に扱っているような気がして、私はちょっと…
[一言] 初めまして。ゆいちゃんみたいに暇な授業は何か気をまぎらわせていたな……と共感が持てました。  お好み焼きが詳しく書いてあり、知られている料理もあらためて見ると何だか面白いですね。 (作者調…
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