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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
君に捧ぐソナタ
99/126

第二番 Rhapsody in Blue

 先生。

 あなたの言葉の意味がやっと分かりました。



 さやか先輩の涙を見たのは二度目だ。

 一度目は入学式の日。

 先輩達が始業式をしている間、入学式までの時間を持て余した新入生の俺は音楽室にいた。

 それはただの気まぐれだった。久しぶりにピアノに触れる。

 ピアノに触れると不意に蘇る先生の言葉と、あの人の最期の笑顔。


『感情のままに弾くのはやめなさい』


 その時の俺には先生の言葉の意味が分かってなかった。

 身体は勝手に音を奏でていく。


『亡き王女のためのパヴァーヌ』


 あの人が好きだった曲。せがまれて何度も弾いて聴かせた。あの人が最期に眠りについたその時まで。


 鍵盤の上にひらりと桜の花弁が落ちる。

 弾き終えて、窓が開けっ放しだった事に気付いた。

 窓を閉めようとすると、校庭に佇む女子を見つけた。


(先輩かな……?)


 その人は空を見上げて、静かに泣いていた。

 その涙に何故か見惚れた。


 どれくらい経っただろう……。

 時間にしたら、ほんの数秒だったかもしれない。彼女は立ち去り、気付いたら入学式が始まる時間になっていた。


 式場に行くと、新入生を歓迎するオケ部の中に彼女はいた。


(やっぱり先輩だったんだ……)


 仲間内で笑い合うその姿は、さっきよりずっと可愛らしく見える。

 つい数分前まで泣いてたのが嘘みたいに。

 無邪気に笑う人なのだと思った。


「ようこそ雪花学園へ」


 部長らしき人が話し始めて我に返る。

 すると生徒会の席にいる熊谷が手を振っていた。

 ずっと振っていたらしく、『やっと気付いた』と小声で司に報告しては、ゲラゲラ笑っている。


(何してんだアイツら……ったく)


『ちゃんと前向けよ』


 顎で示すと、何か言いたげにこっちを向いたが、大久保に睨まれて大人しく前に向き直った。


「それでは聞いてください」


 いつの間にか部長の話は終わっていた。

 まばらな拍手がやんで、演奏が始まる。その瞬間、胸を思い切り鷲掴みにされた。


(アルトサックス! さっきの先輩……!)


 無邪気に笑う彼女の音色は踊るように跳ねて。

 こんな音……出せる人がいるのか、と。

 憧れに似た衝撃だった。


 技巧的にずば抜けて上手い訳ではない。なのに強く惹き付けられる。

 自分には決して出し得ない音の数々。


 それは俺が彼女を好きになるには十分すぎる理由だった。




「駆くん? 聞いてる?」

「あ、すみません。何でしたっけ?」

「もう! だからソナタのアドリブどうしよっか、って話」

「先輩にお任せしますよ」

「え~」

「自由に吹いてくださいよ。俺合わせますから」


 俺が笑うと、さやか先輩は一瞬黙り込んで、また楽譜と格闘を始めた。

 すると何か思いついたようにサックスを吹く。

 それを頬杖をついてぼんやりと見つめていた。


(やっぱり好きだなぁ……)


 彼女の奏でる音楽が、楽しげに笑うさやか先輩そのものだから。

 俺の悲しく冷たい感情は、聞く人にまで響いてしまう。

 もうさやか先輩を俺の音楽で泣かせたくない。


 さやか先輩と一緒弾いたら、俺もその音に近づけるだろうか。


 なぁ、先生?

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