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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
彷徨う心
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策士

――君の本当の気持ち、気づかせてあげる。




「小澤くん。ちょっといい?」


 女子からの呼び出しがあるのはいつもの事。小澤は取り澄ました笑顔で、彼女の呼び出しについていった。

 それをたまたま見てしまった真由は、胸がどうしようもなく苦しくなる。


(あたしは篠宮くんが好きなんだから、そんな事……あり得ないはずなのに)


 彼女が小澤の隣で笑っている事を想像したら、じわりと涙が溢れそうになった。

 篠宮の事考えようとすればするほど、小澤の影は輪郭を濃くはっきりとさせる。


(こんなの、絶対おかしい。小澤くんの笑顔が、自分以外に向けられるのが耐えられないなんて……)


「野々村さん? どうかした?」

「ううん。何でもないよ?」


 篠宮は相変わらず。何の進展もなし。

 何かと気にかけて声を掛けてくれる。こうして少し交わす会話がいつも心地良かった。


(それでもいいって、思ってた……けど)


 突然駆け抜けた小澤という風。そのスピードに心が追いつかない。


「あれ? 美月と……小澤?」

「え……?」


 篠宮が、渡り廊下を歩く美月と小澤の姿を見つけた。

 真由の心に、また風が吹く。


「珍しい組み合わせだな」


 篠宮は呑気に首を傾げた。



 ***



「さっきの子泣いてたよ」

「だから? 何?」

「あんな振り方……あの子みたいに泣かせたら、いくら小澤くんでも許さない」


『何の話だろう?』

『……分かんない』


 小澤と美月の会話が聞こえてくる。


(小澤くん。さっきの子、振ったんだ……)


 真由は心のどこかでホッとしていた。


「でももういいんだ……」

「え?」

「俺がどんなに想ってても、振り向いてもらえない」

「ちょっ、何?」


 小澤が一気に美月との距離を詰める。美月は焦ったように後ずさりした。


「ねぇ、慰めてよ……」

「は? いやいやいや、意味分かんな――」


――ドンッ!


 小澤は美月の腕をグッと掴んで、壁に押し当てた。

 美月は、背中に壁、前には小澤で、完全に身動きが取れない。


「ちょっ、何す、る……ッ」

「安倍さんなら、振り向いてもらえない俺の気持ち分かってくれる?」

「な、やめ……ッ!」

「どうせ熊谷とも大久保とも、してるんでしょ?」


 そして小澤は顔をゆっくりと近づけた。




「嫌……ッ、ダメ!」


 美月は何が起きたのか全く分からなかった。

 聞き慣れた声と、誰かに引っ張られた衝撃に、思わず閉じた目をゆっくりと開けた。


「小澤! 何してんだお前!?」

「篠宮……」


 どうやらすんでのところで篠宮が小澤から美月を引き剥がしたようだ。


(た、助かった……)


 美月は心の底から安堵する。

 その様子を小澤は見た事もない嘲笑うような冷たい目で見下ろしていた。


「おい、大丈夫かよ……?」

「な、なんとか」


 篠宮に支えられながら、美月は深呼吸をした。


(まだ心臓バクバクしてる……)


「小澤くん……どうして、こんな?」


 小澤の服の裾を、真由がぎゅうっと掴む。小澤はそっとその手を包みこむと、優しく真由の髪の毛を撫でた。


(ちょっ、さっきの人と別人すぎ……)


「これくらいしなきゃ、真由こっち見てくれないでしょ?」

「え……!?」


 真由はその言葉に思わず顔を上げると、優しく微笑む小澤と目が合った。


「やっと見てくれた」

「お、ざわくん……」


 心臓の高鳴りを小澤に聞かれてしまうのではないかと、思うくらい真由の心は小澤に支配されていた。

 あの時、頭で考えるより先に身体が、必死に小澤を止めていた。そして、また身体が勝手に、小澤に縋ろうとしている。


「俺の事、なんで止めたの?」

「だって……小澤くん、ッ」


 真由の目から涙が溢れる。

 思考回路がショートして、言葉が止まらない。


「、振り向いてもらえないなんて……言わないでよ、ッ」

「……え?」

「小澤くんの事、もうこんなに好きなのに……ッ、なんでそんな風に言うの!?」

「真由?」

「あたしの気持ち、無視しないって……言ったじゃん」


 あの冷静な小澤が、気持ちを抑えきれないように真由を思い切り抱き締めた。


「……、小澤くん?」

「ヤバい……今のズルすぎ」


 小澤の心臓の音。抱きしめられた胸からドキドキと熱が直接伝わってくる。


(小澤くんもこんな風にドキドキしたりするんだ……?)




「ちょっと、もういいから離しなさいよ」


(二人のお熱い抱擁に見とれて気づくのが遅れた……)


 現在美月は小澤から引き剥がした篠宮に、腰に腕を回されたまま。

 腕をペシンと叩いたが、篠宮はその腕の力を緩める事なく深い溜息をついた。


「お前……何もなくて良かった」

「は? もう意味分かんない! 早く離せってば! ……あ、わりぃ」


 力任せに振り上げた拳が顔面に当たり篠宮がまた鼻血を出す中、美月は未だ真由を抱き締める小澤と目が合った。


(もしかして、真由を手に入れるためにこんな茶番を……?)


 一瞬美月の頭を恐ろしい一つの仮説が浮かぶ。

 目の合った小澤は絶対真由には見せないであろう不敵な笑みで笑っていた。


(この人、怖ッ!)


 この日真由に、とんでもない彼氏が出来た。

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