歪む
文化祭が終われば、生徒会は通常業務に戻る。次は夏休みが終われば秋の定演会、そして体育祭と続くイベントの準備に追われる。
「ただいま」
「おかえり、篠宮くん」
篠宮が、生徒会に戻ってきた。
真由は嬉しいけれど、どうしていいか分からない、そんな複雑な気持ちに駆られていた。
それは嘘みたいに突然訪れた告白。
『俺……真由の事好きだわ』
それからというもの、真由は小澤が気になって気になって仕方がなかった。
「…………」
思わず真由は小澤を目で追う。
前までは不意に視界に入った瞬間、必ずと言っていいほど目が合っていた。今は少しも目が合わない。
『ずっと見てたよ、真由の事……』
(あんな言葉、嘘だと思ってた。ううん。嘘だと思おうとしてた)
しかし改めて気づく。小澤がずっと自分を見ていた事に。
(急に避けるみたいな態度。ねぇ、どうして?)
きっとずっと避けていたのは自分の方だった、と真由は思った。
『真由の気持ちを無視して、もう二度とあんな事しない』
小澤はそう、誓ってくれた。
(でも)
「マネージャー。大久保が呼んでる」
「……あ、うん。分かった」
(マネージャー呼び、戻ってる……)
たったそれだけの事でも胸が痛く、締め付けられる思いだった。
(いつの間に、こんなに、あたしの心は小澤くんで占められていたんだろう)
「なぁ……最近野々村さんおかしくね?」
「そう?」
生徒会室の隅で縮こまっている美月に篠宮が話し掛ける。
「なんつーか……上の空?」
「あんたと話したくないんでしょ?」
「そんな……美月じゃないんだから」
「あら、よく分かってんじゃん」
「つかなんで美月が生徒会にいる訳?」
「それはあたしが聞きたい」
九条に呼び出されたらしい美月は、そのまま唸って考え込んでしまう。
「やっぱ無理! このいけめんオーラ耐えられん!」
「相変わらずだな、お前……」
「帰る」
「いいのかよ? 九条先輩は?」
「その話は受けられないと伝えてくれ」
「は? 何の話だよ……っておい!」
美月は既にスタスタと生徒会室を出て行こうとする。
「さっきの話もまだ終わってない!」
「まゆは大丈夫」
「そう、なのか……?」
「風向きはいい。心地よい追い風。あたしにとってはね」
「……?」
「あんたにとっちゃ強風注意報」
「なんだよそれ!」
「森の母の予言」
「デタ、ドヤ顔」
(新宿の母のパクリかよ。でも時々……いや、結構当たるから怖い)
「まゆよりあたしは藤代くんのが気になるけど」
「は? 司?」
篠宮はチラリと藤代の様子を見る。いつも通り長谷川や相原とふざけ合って、相変わらず仕事をする気はさらさらなさそうだ。
「まぁ、あんたが気づいてないくらいならいいや」
美月はそのまま本当に帰って行った。
(全く……)
篠宮は美月の言葉が気になって、もう一度藤代を見てみる。
(……あれ? そういや、いつもより少しテンション高い?)
藤代のいつもに増して大きな笑い声が、生徒会室に響いていた。




