present for you
いつの間にか女子に囲まれていた美月が急に立ち上がった。
「さーて、あたしも渡してくるかな?」
「みづき様、誰かにお渡しになるのですか?」
後輩の女子達が涙目で聞く。
(ねぇいつの間にみづき様呼び?)
真由は心の中で突っ込む。
『みづき様』と呼ぶその子達の目は、完全に恋する乙女だ。それに応えるように、美月はニヤリと笑った。
(ってゆーか、待って! ついに、美月ちゃんも藤代に渡す時が……!?)
当の美月はと言えば女子達にお花を振り撒きながら、教室を出ていく。
「なぁ、アイツ普通に教室出てったけど……」
「……え?」
篠宮が美月の後ろ姿を目で追いながら呟いた。
そう、藤代は教室にいるのだ。
今も自分の席に座って隣のクラスから遊びに来た相原に、貰ったプレゼントを自慢しながらゲラゲラと笑っている。
「……誰に渡すつもりだ?」
「ちょっと美月ちゃん!?」
真由と篠宮も思わず美月の後を追った。
教室を出た美月はすぐに目的の人を見つけたのか、笑って手を振った。
「ツクヨミさまぁ〜」
「え……?」
「大久保ッ!?」
呼ばれた大久保は多少面倒臭そうな顔を向けたが、他の女子に向けるような威圧的な態度ではない。美月は綺麗な和柄の包みをにっこり差し出す。
「ご機嫌麗しゅう。ツクヨミ様」
大久保はその様子を黙って見つめていた。
「今まで大久保くんに受け取ってもらえた子なんていないよね?」
「つか女子があそこまで近づける時点で奇跡」
「なんかでも、ツクヨミ様と朔弥様……」
「「……ちょーヤバーい」」
あれだけ騒然としてた女子達も、相手が大久保だと知って悶絶している。
舞台が終わってからというもの、大久保ファンや美月ファンだけでなく、何故か二人のカップリング萌えするファンが急増していた。
(あたしからしたら、美月ちゃん自ら男子に話しかける事自体、奇跡……)
真由は呆然とその光景を見つめた。
「朔弥、ちょっと付き合え」
「え、あ……ッ、ちょっ!?」
大久保は差し出された包みごと美月の手を掴んで歩き出す。美月は躓きながら、引き摺られるようにそのままどこかへ連行されて行ってしまった。
「「「キャー!」」」
二年生の廊下に黄色い歓声が木霊した。
***
「ねぇこれ美月の手作り〜?」
「うん。甘さ控え目にしてみた」
「ちょー美味しいよ」
「ホントに?」
「熊谷」
「はいはい。あ〜ん」
「…………」
「ね? 美味しいよね? 大久保?」
「あー……」
大久保の覇気のない生返事に、美月はいじけるように熊谷の背中を抱き締めた。
「ねぇ、ひろの。この状況何だろう?」
「さぁ……?」
九条と紘乃が二人で微睡んでた生徒会室に突然の来客。
今二人の目の前では、ソファに座る熊谷の膝に大久保が寝転び、その熊谷を美月が後ろから抱き締めている。
後ろから回した美月の手は微かに大久保の髪に触れていた。
「大久保の栄養補給ですかね?」
紘乃が首を傾げながら呟いた。
(……あれだけ練習したのに! なんでそんなややこしいやり方じゃないと出来ないんだ!? 全く……キスでも血でも、ちゃっちゃと奪っちゃえばいいのに!)
「そんな、やまとちゃんじゃないんだから」
「……へ?」
「声に全部出てる」
「嘘!?」
「ホント」
「うぅ……舞台めちゃくちゃにした事、九条先輩まだ怒ってるよおおお」
「あんな人ほっといていいからねー美月。はい、あ〜ん」
「あ〜ん……美味しい。我ながら」
「勝手に食ってんじゃねーよ」
「大久保ね、プレゼント受け取ったの初めてなんだよー」
「うっせー黙れ熊谷」
美月は今度は嬉しそうに熊谷の背中に擦り寄った。
「でも美月ちゃん幸せそう」
「あ、あぁ……」
(なんであんなコントみたいな三人見せられなきゃいけないのか分かんないけど)
「ま、いっか」
美月を見て嬉しそうに微笑む紘乃の横顔に、九条はキスをした。




