閉幕
拍手はいつまでも鳴り止まなかった。
幕が降りた瞬間、美月の意識もブラックアウトした。
「おいッ!」
美月が急にグラリと倒れ込む。大久保が条件反射で支えたその身体は、熱で火照っていた。
(そういえば舞台前も屍食鬼とバトってたとか言ってたな……)
「力の使いすぎだ! バカ!」
「……ツクヨ、ミ様?」
大久保の腕の中で虚ろに呟く。
「もう舞台は終わった。何も考えないで寝てろ……」
その言葉に美月は、安心したように微笑んで身体を委ねた。
「美月!?」
異変に気付いた熊谷を無視して、大久保は美月をお姫様抱っこして立ち上がる。
そして、『おい、そこの純血!』と夕樹を呼んだ。
「コイツは一旦俺が預かる。コイツの荷物まとめて俺の部屋に来い」
「あ、はい」
「後は頼んだ」
「ちょっと! 大久保! これからショータイム――行っちゃった」
声をかける隙もなく、大久保は行ってしまった。
とりあえず美月は大久保に任せておけば大丈夫だろう、と思う。
(……でも。あんな必死な大久保、初めて見た)
***
【旧寮:大久保の部屋】
「……ッ」
ベッドに横たわる美月は時々苦しそうに息を漏らす。
大久保はベッドの端に腰かけて、額に触れた。その身体は、低体温の大久保が触れたら溶けてしまいそうなほど熱い。
使いすぎた氣を体内で必死に生成しようとして、発熱しているみたいだった。
ずっと不思議に思っていた事。
(何故コイツだけは触れてもヘーキなのか……)
その答えは出ないままだったが、今はそんな事を言っている場合ではない。大久保は美月の手を握った。
しかし美月や九条ほど気の流れを詠むのが上手くない大久保がいくら触れても、美月の氣は戻らずに苦しそうに喘いでいる。
「……チッ」
大久保は無意識に舌打ちをした。
気づけば最近はずっと頭が割れそうになる頭痛も、止まらない吐き気もなかった。
(コイツが来てから、か……)
不意にどんなに逃げても決して遠くへは行かなかった稽古の日々が蘇る。
(やられっぱなしは趣味じゃない)
氣を確実に流し込むのに有効な方法はただ一つ。
大久保は美月の顔にかかった長い前髪を指で鋤く。
そして覆い被さるように美月の横に手をつくと、ギシ……とベッドのスプリングが軋んだ。
「……ん、」
苦しそうに声を漏らしても構わずその唇を塞ぐ。
「……ぅ、ん……」
ゆっくり唇を離すと、だいぶ顔色も戻ったようだった。
「稽古もこれくらい大人しけりゃ良かったのになぁ?」
大久保はニヤリと笑って、もう一度口付けた。




