第二章第三景・愛の歴史
「朔弥、これを……」
「お父様。これは、」
維佐薙は静かに頷いた。
「生命の水……?」
「彼がお前のために命を懸けて守ったんだ。そして、彼を救えるのもお前だけだ。朔弥」
朔弥は維佐薙の差し出した竹筒に、震える手を伸ばした。
***
「つ、ついに!」
「来ましたね……」
突然現れた屍食鬼によって流れてしまったキスシーン。
(もう見られないと思ったけど……この展開は!!)
真由はそれがおそらく九条の差し金である事に気付いていた。
(ナイス! 九条先輩!)
大久保は美月に抱きかかえられているうちにすっかり傷は癒えたようだ。しかしその間に不本意な方向に進んでいる展開に、冷静を保とうとしているが眉毛はピクピク動いている。
稽古では大久保からキスしにいく設定だった(ちなみにそれすらも成功してない)のだが。
(この展開は、美月ちゃんから……キキキキキキス!?)
相原から生命の水を受け取った美月は、じっとそれを見つめて。
「…………」
(ああああ! なんかドキドキしてきたッ!!)
「…………」
――バシャッ!
その水を大久保の顔に思いきりぶちまけた。
『『『えええええ!?』』』
この先の展開を知る者達は誰もが言葉を失った。
予測だにしなかった出来事に大久保も、思わず目を開ける。
「あ、起きた」
『起きたじゃないだろおおお!!』
舞台裏では今にも舞台に怒鳴りこみに行きそうなる九条を、皆で必死に押さえた。
(馬鹿……)
大久保が目で訴えたが、美月は分からないといった顔で小さく首を傾げた。すかさず周りには聞こえないくらいの小声で相原が耳打ちする。
『姫ちゃん、ここは君のキスで目覚める所でしょ?』
「……へ? ……ハッ!!」
我に返ってしまったが最後。『朔弥』でいられなくなった美月は、
「ツ、ツクヨミ様……お加減、いかが?」
歪んだ笑顔で、そう言った。
(……急に演技下手になってるし。あーもう、仕方ねー奴だな)
大久保は深い溜息をつく。
(ったく。これくらいのアドリブで許せよ、九条?)
「最高の気分だ」
大久保は呆けてる美月を思いきり抱き締める。
美月は一瞬身体を強張らせたが、ふと力が抜けて背中にそっと腕を回した。
「……、ツクヨミ様」
安心した美月が、大久保の肩越しで小さく泣いていた。
「都は救われたのか……?」
「はい。鵺と呼ばれた男のおかげで」
「彼こそ、都を救った……本当の勇者だ」
当初エンディングに用意していた曲が流れる。舞台には、出演者達が勢ぞろいしていた。
「今までずっと誤解していた。君が私たちを守ってくれていた事に気づけなかった。すまない……」
「あなた様のおかげで姫様は救われました。何とお礼を申し上げたらいいか」
「朔弥は俺に生きる光をくれた。救われたのは俺の方だ」
「何故だ、何故とどめを刺さないッ!?」
「アイツは俺達を解き放つ術をずっと探していた」
「そんなアイツだから俺達は、どこか心惹かれていたのかもしれない……」
「知らなかった。こんなに世界が光り輝いている事。こんなに命が温かく優しさに満ちている事。ツクヨミ様のおかげで輝く未来を見る事が出来ました」
「ずっと生きる意味を探していた。この世に生まれた意味を……。そして見つけた。俺は朔弥の未来を作るために生まれてきたんだ」
「これから始まるこの国の未来は、きっと美しく光り輝いているだろう。一人の青年の姫への愛が生んだ奇跡」
「永遠に語り継がれる、愛の歴史だ」
最後の月夜美と朔弥の歌が終わる。
舞台に無事、幕が下りた。




