続第八景・moonlight
歌が終わると拍手と共に客席がざわつき始める。
(……なんだ?)
大久保は怪訝に思い、客席にはばれないように様子を伺った。すると舞台袖の熊谷と目が合う。
熊谷は指を差して何か必死に伝えようとしていた。何気なくその指差す方に視線を移す。
「……ッ!?」
思わず声を出しそうになって、慌てて飲み込んだ。
この後、生命の水を月夜美から口移しされ、何とか命を永らえ生き返るはずの朔弥が。
「…………」
(……起きてやがる)
『コラあああ! 何起きてんの! 早く寝なさい!!』
舞台袖から九条の檄が飛ぶ。
(今更遅いと思うが……)
(なんだこれ……デジャヴか? デジャヴなのか!?)
不意に稽古の時の悪夢が蘇った。
しかし客席の一点をじっと見つめるその姿からは、逃げ出そうとするいつもの空気は感じられない。
『おい、どうした?』
大久保はマイクを通さないくらい小さな声で問いただす。
『……何か、いる』
美月は確かに、そう呟いた。
***
『まゆ先輩! まゆ先輩!』
後ろからカイトが真由にコソコソと耳打ちした。
『みづき先輩こんなトコで起きる演出でしたっけ?』
『いや……』
ここはクライマックスの美月と大久保のキスシーン。月夜美のキスで目覚めなければいけないはずだ。
(美月ちゃんまた嫌がって起きちゃったのかな!? ここまで順調だったのに!)
――ガタンッ!!
(……、何!?)
急に隣の椅子が倒れる。暗闇だから何が起きたのか分からない。
真由は一瞬にして高まっていた気分が削がれた。
(さっきコソコソ無駄話(つーか美月ちゃんの悪口!)してた女子だ)
さっきは我慢したけれど、今度こそ一言文句を言ってやろうと思って隣を見た瞬間。
「きゃあああああ!!!!!」
***
「な、なんだ今の!? 悲鳴?」
「客席にライト当てて!」
「え……ッ?」
今、舞台に立っていなければいけないはずの美月が舞台袖で叫んだ。
「で、でも……」
「いいから早く!」
「あ、うん」
その剣幕に圧されて、慌てて悲鳴のした客席にライトを向けた。
***
「ウ゛、ウウ……」
悲鳴の他に地鳴りのような低い唸り声。真由の背筋に嫌な寒気が走る。
瞬間、ライトがソレを照らし出した。
人間とは思えないその禍々しい姿。
忘れるはずが……忘れられるはずがない。
「し、屍食鬼……ッ!?」
(何故、屍食鬼がここに……!?)
「嫌ああああぁぁぁぁ!!!!」
長く鋭い爪が隣にいたはずの彼女を切り裂こうとしていた。




