第八景・moonlight
「お待ちください! これ以上中へは!」
「離せ! 俺はあいつを救いに来たんだ!」
青龍を倒し、何とか命をとりとめた月夜美は手に入れた生命の水を届けるためにひた走った。
しかし屋敷の者は鵺の侵入を必死に止めようとする。
その言葉が、誰にも届かない事は分かっていた。
でも叫ばずにはいられなかった。
(あいつにはもう……時間がないんだッ!!)
「……行かせてやれ」
「い、ざなぎさま……何をおっしゃって?」
今まで誰よりも鵺を忌み嫌っていた維佐薙。その声に月夜美も思わず足を止める。
「下がれと言っているのが分からぬか?」
「は、はい! 申し訳、ありません……」
目の合った維佐薙は静かに頷く。月夜美も応えるように頷き、屋敷の奥、朔弥の部屋へと急いだ。
部屋では朔弥が静かに横になっていた。
その顔は安らかだ。
「惟光! 朔弥は!?」
月夜美の声に、惟光は顔も上げずに首を静かに振った。
「おい! 朔弥? 朔弥……ッ! 目を開けろ! 俺だ! 朔弥!!」
ずっと待ち続けていた月夜美の声にも、朔弥は深い眠りについたように少しも目を覚まそうとしない。
「朔弥ああああ!!」
静かな部屋に、月夜美の悲痛な叫び声が響いた。
『安心してくだされ。朔弥がそなたをお守り申します』
『それでは朔弥が名を付けて差し上げましょう』
『この世に消えていい命などありませぬ』
『もう二度とそんな事言いますまいな?』
朔弥の声だ。
初めて出来た心から守りたい人。その笑顔が走馬灯のように蘇る。
「朔弥……」
***
「篠宮!」
「……あ、え……駆?」
受付をしていた篠宮に、控室から白虎の格好のまま出てきた滝本が声を掛ける。
「寝てたでしょ」
「ほんの一瞬」
「今、受付通らないで誰か入ってったけど」
「えッ、マジ!?」
「まぁ後はショータイムだけだし、いいっしょ。九条先輩が受付閉めて康太もショータイムの準備手伝えってさ」
「りょーかい」
「いよいよだな……」
「……ですね」
皆、舞台袖から固唾を飲んで見守る。
舞台では月夜美が朔弥の命の儚さを月に例えたラブソング『moonlight』を歌っているところだ。
「大久保の歌が終わったら、問題のキスシーンだ」
「大丈夫かなぁ……? 美月ちゃん」
「ここまで難なく来たんだ。何とかなる……多分」
稽古では一度も成功する事はなかった。さすがの九条も心配そうな顔で舞台の二人を見つめていた。




