続第六景・覚醒
「姫様は何も知らないのですが……」
惟光は言葉を詰まらせ、そして一呼吸おいて、意を決したように話し始めた。
「十六夜さまをご存知ですか?」
「唯一怨霊を封じる事が出来たという伝説の神子……。名前だけは聞いた事があるが」
「えぇ。姫様はその十六夜さまの血を引くたった一人のお子なのです」
「何だと!?」
「姫様は神子の血を強く受け継がれた身。無意識にこの世の穢れをその身に集め、浄化してしまうのです。ご自分の命と引き替えに」
「そんな……」
不意に花が咲いたように笑う姫の姿が思い浮かぶ。
月夜美にとっては、たった一人笑いかけてくれた人だった。あの笑顔が消えると思ったら、急に怖くなった。
「そのお力ゆえ、十六夜さまも若くしてお亡くなりになりました。姫様もご自分の命が残り少ない事に薄々気づいておられるのです」
(それであいつあんな事……)
『この世に消えていい命などありませぬ』
それは静かに誰かに言い聞かせるような声だった。
「どうしてその話を俺に?」
「どうか姫様をお救い下さいませ」
「お前……」
「怨霊が消えこの世の穢れが無くなれば、姫様は……」
「…………」
「私自身あなた様に命を救われ、これ以上望むのは都合が良すぎる事は分かっております! しかし! 何卒……何卒、姫様を……」
『鵺』と呼ばれる自分に頭を下げるという事がどれほどの事か、蔑まれ続けた月夜美にはよく分かっていた。
(それほどまでに、あの姫を)
「頭を上げてくれ」
「姫様を、お救いいただけますか……?」
「お前には命を助けられた借りがある。それに、」
「……?」
「あいつは俺に名前をくれた。だから今度は俺が……あいつに生命をくれてやる」
初めて触れた人の優しさ。月夜美の心に迷いはなかった。




