第六景・覚醒
目覚めた鵺は未だ完治には至らず。
時々目を覚ましては少し言葉を交わしてまた眠る、そんな日が続いた。
「鵺はまだ?」
「目覚めてはおりませぬ」
「……そうか」
惟光は初めて維佐薙に嘘をついた。
***
「お加減はいかがですか?」
鵺だと知っているのか、いないのか。
目覚めるといつも笑いかける人。
鵺にとって、それは初めての事だった。
「何故助けた?」
「何故、とは?」
朔弥は本当に何故そんな事を聞くのか分からないという顔で首を傾げた。
どうやら世間知らずなお姫様らしい。
「あのまま死なせてくれれば良かったのに……」
鵺の言葉に、朔弥は悲しそうに笑った。
「この世に消えていい命などありませぬ」
部屋に静かな、しかし凛とした声が響く。
(こんな俺でも……生きろと願ってくれる人が、いるのか?)
「もう二度とそんな事言いますまいな?」
朔弥は震える手で、鵺の仮面に触れた。
「……気持ち、悪くないか?」
「え?」
「俺に触れて、気味悪くないか?」
「何故です?」
「俺は人間でも怨霊でもない。半端な存在だ」
朔弥は触れていた手をパッと離すと、自分の胸に手を当てて考え出した。
「気味悪いと申しますか……この辺りがざわざわ致します」
「……ざわざわ?」
「そなたは、ざわざわ致しませぬか?」
朔弥は自分の胸に当てていた手を、鵺の胸元に当てる。
触れた瞬間、大きく鼓動が脈打つのが分かった。
(なんだ……これは?)
***
(美月……)
熊谷は舞台袖から二人の演技を見つめていた。
始まるまで心配だった二人だけのシーン。
(稽古ではあんなによそよそしいというか……むしろどうしようもなかったのに)
今は二人の距離がどんどん近づいていくのが手に取るように分かる。
(あの二人、いつの間に……?)
演技だという事はもちろん分かっている。
分かっているけど、何か違う。
「熊谷? 大丈夫か?」
「駆……。うん、大丈夫だよ? どうして?」
「いや、苦しそうな顔してたから……」
(……え?)
(俺が苦しい?)
熊谷の頭の中は、顔に出ていたらしい。
「大久保、取られちゃったな?」
そう言って滝本は熊谷の頭をぽんぽんと撫でた。滝本の大きくて暖かい手に少し気持ちが落ち着く。
(でも)
(本当はそれだけじゃない……)
熊谷の中でもう一人の自分がそう呟く。
確信してしまった気持ちはとめどなく溢れ、膨らむばかりだった。




