第五景・六条院
鵺の消えた都は荒れ果てていた。
あれから、鵺は未だに目を覚まさない。
朔弥は看病している惟光をじっと見ている。
「姫様。見ていても何も変わりませんよ? それよりご自分の身体をお休めくださいませ」
「朔弥は大丈夫です。あ、惟光。そろそろ薬の時間じゃありませんか?」
わざとらしく薬の話題をし出した朔弥に、惟光は溜息をつく。薬が嫌いな朔弥が自ら時間を知らせた事など今まで一度も無かった。
病弱で屋敷から出た事のない朔弥には屋敷以外の人間は珍しい存在なのだ。
その顔はもっと近くに行きたいとウズウズしている。
しかし大事な姫様の薬を持って来ない訳にもいかず、惟光は仕方なく立ち上がった。
「はい、ただいま」
惟光が部屋から出ていく。
朔弥は惟光の足音が遠ざかっていくのを確認して、寝ている鵺に駆け寄った。
***
「惟光」
「維佐薙さま……」
部屋を出た惟光を維佐薙(朔弥の父:相原哲哉)が呼び止める。
「まだ目を覚まさぬのか?」
「はい。傷の回復は目まぐるしい速さでしたが、未だに熱病に浮かされております」
「朔弥は?」
「やはり様子が気になるようで……。しかし姫様の状態は珍しく安定しております」
「そうか……。しかし鵺が我が屋敷にいると知られては厄介。それに朔弥に悪影響だ。目が覚めたら即刻立ち退かせなさい」
維佐薙はそれだけ言うと、踵を返す。
「……承知致しました」
その背中に惟光は切なげに返事をした。
***
朔弥は思いきり顔を近づけ、観察するようにじっと見つめている。
その顔は好奇心のかたまり。
「…………」
何か思いついた子供のように笑った朔弥は、鵺の仮面にそっと手を伸ばした。
「……う、んん」
小さな呻き声とともに鵺が少し身動ぐ。
「……ッ!?」
朔弥は慌てて伸ばした手を引っ込めた。
「……ここは?」
鵺が目を覚ます。
朔弥は御簾を上げて叫んだ。
「惟光! 惟光、大変です! 早よ来やれ!」
屋敷に高揚した朔弥の声が木霊した。




