文化祭、当日Ⅱ
美月が着物の袖に腕を通す。
熊谷はその傷だらけの手を見ていたら、不意に泣きそうになった。
「くま、ちゃん……?」
美月は、手を握ったままの熊谷を不思議そうに覗き込む。
「え……あッ、ごめん」
熊谷は慌ててその手を離した。
「どうしたの?」
しかし美月の問いに答える前に、身体は勝手に動いた。
「……ッ!?」
帯を回した腕で、そのまま抱き締める。
美月はビックリしたみたいに一瞬身体を強張らせたけれど、すぐに力を抜いた。
「美月の事、心配なんだ……」
抱き締める腕に、自然と力が入る。
(胸が、苦しい……)
「大丈夫だよ」
当たり前のように笑う美月を見ていたら、熊谷は少し安心した。
「それにもう舞台投げ出して逃げたりしない!」
「まさか、本気で逃げようとしてた?」
「……ちょっと、だけ」
「みんなで探し回って大変だったんだから」
「申し訳ありませんでした」
「もう、あんまり無茶しないでよ?」
「……うん、ごめん……ありがとう」
美月は熊谷の背中に回した手をぎゅっと握りしめた。
「時間がない。急ごう」
「うん。お願いします!」
美月に応えるようににっこり笑うと、熊谷は再び着付け始めた。
「よし、出来た!」
「……んんん〜、緊張してきた」
「大丈夫。俺たちが近くにいるし、何かあったらすぐフォローするから」
「くまちゃんんん」
美月は今にも泣きそうな顔で、熊谷を見つめる。
「お前そんな顔で舞台出るつもりかよ」
いきなり聞こえた声に振り向くと、そこには篠宮の姿。
「ッ、しのみや!? アンタ今までどこにいたの!?」
(つか、存在忘れてた……)
突然現れた篠宮は肩に見慣れない鞄を背負って、美月の腕を掴む。
「説明してる暇はない。ちょっと顔貸せ」
「はぁ!? 意味分かんない!」
「熊谷、美月の事動かないように押さえといて」
「あ、うん。ごめんね? 美月」
「ちょっ、離してくまちゃん! やめろ! しのみや! ぎゃあああああ!!」
美月の悲鳴が楽屋に木霊した。
本番まで、あと三十分。




