イザナワレテ
「つか、なんでコイツらいる訳?」
藤代は真由と紘乃を顎で差して、九条に訴える。藤代の態度に真由はムッとしたが、どうしてここにいるのか聞きたいのは、真由自身の方だった。
『見られちゃったね?』
あの状況下で……。
九条と大久保の目を盗んで意識の朦朧としてる紘乃を連れて逃げる事など出来るはずもなく。そうこうしているうちに気づけば生徒会の全員が集合していたのだ。
「これは僕の不注意なんだけど……」
困ったような表情に、ため息まで付けて九条が話し出す。
(九条先輩って普段からこんな演技染みてるのかな……?)
真由はふと、『絶対あの人ミュージカル向きだから!』と力説していた美月の姿を思い出していた。美月の妄想は、根拠もないのに結構よく当たる。
「ひろのちゃんとイイコトしてるのを、彼女に見られちゃったんだよね」
九条は紘乃に近づくと首筋に手を伸ばした。そして首筋の不自然な二つの傷口に触れると、その傷が瞬く間に消えていく。
「え……?」
さっきまでまだ青白い顔をしていた紘乃だったが、いつの間にか血色も戻っている。
「せんぱ、い」
「ちょっ! ひろちゃんしっかりして!」
紘乃は虚ろな目をして、魂まで九条に抜かれてしまったみたいだった。
「お前また血吸ったのかよ!?」
「しかも見られてるし……」
「今回は明らかにお前が悪い」
「もう分かってるって! 大久保までそんな目で見ないでよ」
(今ものすごーくナチュラルに、ものすごーくとんでもない事を聞いてしまったような……?)
それまで黙って様子を伺っていた真由だったが、痺れを切らして口を開いた。
「あのー……」
「ん?」
「血とか吸うとか、それにさっきひろちゃんの傷も消えちゃったし……」
「あぁ、だってそれは」
九条が微笑むと、それに誘われるように冷たい風が頬を掠める。蛍光灯の明かりがユラユラと揺れて、不自然に消えた。
「僕たち……鬼なんだもん」
……ドクン、ドクンッ、ドクン!!
この心臓がうるさいのは、怖いからじゃない。月明かりに照らされた彼らが、あまりにカッコ良すぎたから。
闇に、引き寄せられる。