文化祭、当日
「え……あたしですか!?」
「あぁ、期待しているよ」
紗弥加は目を丸くして驚く。
それは彼女の上に舞い降りた、とびっきり大きなチャンスだった。
「はぁ……」
「さやか先輩」
「…………」
「さーやーかーせんぱーい!」
「……え、あ、駆くん?」
「どうしたんスか? 溜息なんかついて」
「あ、ううん。何でもない! それより今日の文化祭、楽しみにしてるね」
「あー……それが、」
滝本は困ったように片眉を下げて笑うと、何も言わずに視線を促した。その目線を追うと、九条と言い争いをしている彼氏の姿。
「案の定じゃねーか! このままじゃ幕開けらんねーぞ!?」
「幕は必ず開ける」
「どうやって!? 主役二人が消えてんだぞ?」
「心当たり片っ端から探して!!」
「ったく……大久保までどこ行ったんだよ」
藤代は舌打ちをして、面倒臭そうに走り出した。
「美月ちゃん、まだ見つからないの?」
「そうみたいスね。俺も探してきます」
「あ、あたしも! 見つけたら連絡する!」
「……ありがと、さやか先輩」
伏し目がちにふんわりと笑って、走って行ってしまう。
紗弥加にとっては、たまに顔を合わせた時に話すだけの後輩。
(なのに、なんでこんなに……ドキドキするんだろう?)
***
「こんな所に呼び出して、何の用だ? 純血のおチビさん?」
「大久保さんに、これ渡せって」
「あの女のおつかいか? アイツは今どこにいる?」
「心配、ですか?」
「……別に。ただ生徒会に迷惑がかかるのは困る」
「安心してください。今こっちに向かってますから」
夕樹は小さくお辞儀をすると、文化祭の賑やかな喧騒の中に消えて行った。大久保は一人残されて、さっき渡されたモノを見つめる。
一目で美月の言いたい事は手に取るように分かった。でもその行動、全てが読めない。
「……変な奴」
そして文化祭の人混みをひた走る、その姿を見つけた。
「先輩急いで!!」
「分かってる! わああすいません! 通してくださいい!!」
相変わらず騒がしい。
「遅ぇーよ、バーカ」
笑みが溢れるのは舞台の幕を開けられる安堵か、それとも……。
***
「大久保! どこ行ってたんだよ!? 探したんだぞ!」
「悪ぃ」
「説明は後だ。とにかくお前は早く準備しろ! 俺は眼鏡さん探しに行く」
「アイツならもうすぐ来るぜ?」
「え?」
そう言って楽屋に向かう大久保の背中は笑っていた。纏う空気が珍しく明るい。
その言葉の意味を理解する前に、急に辺りが騒がしくなった。
「先輩! 速く! 速く!」
「、無理……カイト、先輩もう走れな、い……」
「もう少しだから頑張って! あ、すいません! ちょっと通してくださーい!!」
「……ッ、美月ちゃん!?」
「まゆううう間に合ったああああ」
「間に合ったじゃないわよー! どんだけ心配したと思ってんの!? 携帯は繋がらないし学校休むしどうなってんの!!」
「……いや、それが……その、」
美月が手に持つ携帯は、文字通り真っ二つ。
「……なにそれ?」
「携帯……?」
「疑問系が付いてる時点で最早それは携帯ではありません! つか! そんな事より美月ちゃんその怪我、なに!?」
「いやぁ参った参った。屍食鬼に捕まっちゃって」
「……!!」
ふと隣にいるカイトを見ると、彼もところどころ怪我をしている。
(まさかずっと屍食鬼と応戦を? それで昨日から連絡が取れなかったのか……?)
「もうなんでいつも危険な事に首突っ込んでんのおおお!?」
「愛の戦士だから」
「誰も褒めてないから!」
「マネージャー! 説教は後! とりあえず二人の怪我の手当してあげて!」
「は、はい!」
「それから熊谷! 眼鏡さんの着替え、頼んだよ」
「はい」
これで、やっと主役が揃った。




