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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
波乱の文化祭
65/126

秘密特訓

「てめぇ……さっさと寝ろ! キスするぞ!」

「ひいいいいい!!!!」


 そして、大久保が美月の胸ぐらを掴んだ瞬間。


「あ……ッ、」


 美月は大久保の手を取り半身切り返すと、目にも止まらぬ速さで床に投げた。大久保は不意をつかれて思いきり倒れそうになるも、しっかり受け身は取って立ち上がる。

 その目は明らかに怒気を含んでいた。


(あちゃー……これはまずい)


 美月が胴着を着ているせいで、一体何の稽古か分からない。


「……喧嘩売ってんのか、てめぇ」

「ちがッ、身体が勝手に!」

「たかが芝居でウダウダしてんじゃねーよ!」

「ギャーー!!」


 大久保が無理矢理押さえ付けようとすれば、美月は逃れようと足掻く。しかしこういう時の男の力に女である美月が敵うはずもない。


「もう……悪あがきはよせ」


 低い声。

 後ろには壁。

 逃げられない。大久保の顔が近づく。


 あと……三十センチ。

 ……十センチ。

 

 五センチ。



――ドクン、ドクンドクン……ッ!!



「……何のつもりだ、熊谷?」

「あ、いや……」


(……止めてしまった)


(大久保のためだからって、自分に言い聞かせていたはずなのに)


「そ、そんな無理矢理じゃ練習にならないよ。ホラ! 美月死んじゃいそう!」


 震える美月の頬を涙が伝う。大久保は舌打ちをして、美月の拘束を解いた。


「ちょっと休憩しよ? ね? 俺、美月落ち着かせてくるから」

「……熊谷? お前――」


 熊谷は何か言いたそうな大久保の目が見られなかった。


(今まで一度もそんな事なかったのに……)


 そしてそのまま美月の手を取ると、体育倉庫を出て行った。



 ***



「美月、だいじょーぶ?」

「うん、ありがと……。ごめんなさい、ッ」


 『ごめんなさい』と、美月は泣きながら何度も謝った。


(俺の前ではそんな謝らなくてもいいのに)


「目ぇ閉じて」

「え……?」

「いいから」

「う、うん」


 美月は戸惑いながらも素直に目を閉じる。


(こんな無防備な姿。他のだれかにも見せたりするのかな……?)


「はい、そのまま深呼吸」

「え~?」

「早く」

「……ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

「それ、ラマーズ法」

「あ、そっか、んん……ッ」


 吸い寄せられるように唇を塞ぐ。最初は少し身じろいだけど、すぐに大人しくなる。

 熊谷は背中に回った手が、必死に自分の背中にしがみつくのが分かった。


「落ち着いた?」

「……うん」


 美月はまだ何が起きたか分からないって顔をしている。ぼーっとした瞳で熊谷を見つめた。


(やっぱり誰にも渡したくない……)


「ありがとう」

「え?」

「なんでだろう。くまちゃんなら大丈夫! くまちゃんすごーい!」


 美月が無邪気に笑う。


「だろ?」


 応えるように、熊谷も笑った。

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