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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
波乱の文化祭
62/126

お姫様は純情系

「ヤッバイ! 姫マジ面白いんだけど」

「テツ、そんなに笑っちゃ可哀想だよ。安倍ちゃんだって一生懸命なのに」

「それは分かってるけど……あのキャラ、面白すぎっしょ」


 相原は『姫〜』とニコニコ手を振ったが、極限状態に陥りただでさえ周りの見えていない美月には恐らく届いていない。


「姫ってさ、男ダメなくせに熊谷は大丈夫だよね?」

「康太も大丈夫だよ」

「あれは、男と見なされてない」

「そんなズバッと切らなくても……」

「なんで熊谷にはなついてるの?」

「小動物的な?」

「ズルい! 俺もなつかれたい!」

「……仲良くなりたいとかじゃねーんだ?」


 お腹を抱えて笑っている相原を横目に、熊谷は美月に視線を移した。また泣きそうになりながら(むしろもう泣いているかも……)、相変わらず大久保相手に稽古している。


(篠宮にはあんなに強気なのに)


 しょっちゅう手や足が出ているのを目撃するし、篠宮に対する扱いの酷さは多分幼馴染である藤代以上。


(やっぱり心を許してる……って事なのかな?)


 


「今日はここまで! 解散!」

「「「おつかれしたーっ!!」」」


「あれ? 熊谷まだ帰んないの?」

「俺もうちょいストレッチしてから帰る」

「あら、それは関心関心。あ、美月ちゃーん!」

「まゆ……あたしもう無理。帰る」

「今、教室に忘れ物取ってくるからちょっと待ってて」

「うん。待ってる」


 美月は寂しそうに真由の背中を見送って、体育館の隅にストンと腰を降ろした。熊谷はさりげなく近づいてストレッチを始める。


「あ……」


 消え入りそうなほど小さな声がして、熊谷はストレッチをしながらチラリと美月を盗み見した。


(あれ? ……泣きそう?)


 美月の視線の先を目で追ってみる。

 ちょうど藤代が彼女の肩を抱いて、体育館を出るところだった。

 そのまま泣いてしまうのではないかと思った。しかし美月はその背中を見て、微笑ましそうに笑った。


(どうして、そんな……?)


「安倍ちゃん、司が好きなの?」

「……え? えええええ!?」


(すごい反応)


 熊谷は胸の奥がチクリと痛む。そして不意に図書館で泣いていた美月の姿が脳裏に浮かんだ。


(あれは司が原因だったのか……)


「俺はね、大久保が好き」

「へー……あ、えぇ!?」


 美月は一瞬考えて、驚いたように目を見開いて熊谷を見た。その反応に、クスリと笑って続ける。


「ずっと一緒にいて、いつも俺の事守ってくれる」

「へぇー。あの大久保様が?」

「うん。カッコ良くて、俺の憧れなんだ」

「熊谷くんには優しいんだね……」


 美月は自分への扱いを思い出し、顔を歪めた。


「違うよ、大久保ホントはね、」

「あの人B型でしょ? 絶対」

「え……そうだけど。なんで?」

「きっと色々考えてるんだろうけど、それを他人に伝えるのが極端に不器用。分かりづらいけど、根はイイ奴。典型的なB型」


 美月は『当たってる?』と言って、笑った。


『大久保ホントはね、不器用なだけなんだ』


 熊谷の言いたかった言葉を、美月が全て代弁してくれた。

 何年も一緒にいて、やっと分かった大久保の事を、こんなにも早く見抜いてしまった。


「やっぱり安倍ちゃんすごいや」

「え?」

「だからね、安倍ちゃんが羨ましいの」

「……?」

「俺じゃダメなの。大久保助けられない。でも安倍ちゃんは違う」

「…………」

「大久保の太陽になってあげてね」

「……熊谷、くん」


 親友以上、家族未満。憧れの大久保。

 熊谷はずっと彼の力になりたいと思っていた。それでも大久保の体調が良くなる事はなかった。

 しかし最近の大久保は顔色がいい。近くに美月がいるおかげだろう。

 どうして美月だけが大久保に近づけるのか分からなかったが、九条によると美月の氣は大久保と似ているらしい。


「分かった。熊谷くんのためにも頑張る」


 熊谷の言葉に、美月はそう約束した。


「じゃあ、舞台出来そう?」

「…………でもキスシーンは無理!」

「アハハ!!」

「笑いすぎ」

「だって、たかがキスにそんな……」


 美月は俯いて顔を赤らめる。


(あれれ? これは、もしかして……?)


「姫、もしやキスは未経験であるか?」


 熊谷の問いに、さっきよりも顔を赤くして、黙って頷いた。


(……これは、ちょっと、ヤバいかも)


「深く考えないで、気楽にしてればいいのに」

「そんなん無、ッん……!?」


 身体が勝手に動いて、言葉を遮る。初めてだというその唇は、柔らかくて温かかった。


「ほらね? 簡単でしょ?」

「…………」

「いつでも練習相手になってあげる。じゃあまた明日ね! 美月!」


 熊谷の声が聞こえているのか、いないのか。美月は固まったまま動かない。



 熊谷は体育館を出て行くと、そのまま寮の自室まで一気に走り抜けた。


「熊谷? どした? 顔赤いぞ?」


 同室の相原が、部屋に入った途端しゃがみ込んだ熊谷に話し掛ける。


「熱でもあんのか?」

「……あるかも」


 身体が熱い。

 こんな高揚は久しぶりだった。

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