ラストシーン
「これ、美月ちゃん大丈夫かな?」
台本を見つめ、真由が呟く。
「いや……多分無理だろ」
隣で一緒に台本を見ていた小澤は、今も震えながら稽古を行う美月を見て苦笑した。
文化祭本番も近づき、稽古は佳境に迫ってきた。
「九条先輩」
「先輩じゃない。監督と呼びなさい」
「あ、九条監督……あの、」
「なんだい?」
「この台本……」
「ラストを書き直してみたんだ。より感動的なラストになっただろ?」
「いや、それはそうなんですが……これは、ちょっと」
「今日はさっそくそこの稽古から入るから」
「えぇ!? ……で、でも稽古では、その、やらなくても?」
「稽古で出来ないもんが、本番で出来る訳ないでしょ?」
「んな……」
鵺と呼ばれたその男。
怨霊を操る者にあらず、真実は怨霊を倒す者なり。
怨霊の巣食う森に万病に効くと言う命の泉ありけり。
その男は愛した女のために、ただ一人その森へ乗り込み、命の水を女に与えたまう。
「ここで床に伏した姫の元に大久保がやって来る! 眠る姫の頬にそっと触れて。はい、大久保! 台詞!」
「間に合った、か……」
「そして姫を抱き上げて、命の水を」
「これって、まさか……」
「キスシーンだよね?」
「ちょっと待って。姫ちゃんの様子が……」
美月が眠っているはずの布団がもぞもぞと動く。慌てて九条が様子を覗きに行った。
「ちょっと眼鏡さん! 今の寝てるシーンだから! 目開けない! ガタガタ震えない!!」
「怖い怖い怖い」
「じっとしてなさい」
「うぅ……」
「目瞑って。怖くなーい。ほら、怖くないよー」
「んんー……」
「ハイ! 今! 行け! 大久保!」
「命の水だ。これでお前は生き続け、ッ……クク、ハハハハハ!!」
「……? 何、どうした大久保? ……って眼鏡さん! 白目むかないの! なんでそうなるかな!?」
「……ッハ!! ……え?」
「って、気絶してたんかい!」
はてさて。
どうなる事やら……?
本番まで、あと一週間。




