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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
波乱の文化祭
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大和撫子

「ねぇ!」


 後ろから肩をトントンと叩かれる。


「え、何、もう着れた?」

「ううん」

「えッ!?」

「着方分かんない」

「あ、あぁ……」


 熊谷は思わず振り向きそうになって焦った。

 紐を結ぶだけの肌襦袢も、和服を着なれない人には未知の物らしい。


「えっと……ほら、合気道の胴着みたいに着ればいいんだよ」

「おー、なるほど」


 納得したらしい美月は、『これでよし!』と小さく頷いた。


「熊谷くん、着れたよー」


 振り向くと、薄い布一枚纏っただけの美月。


――ドキン、ドキン……ッ


(……なんだ? 心臓が……)


「安倍ちゃん。次、これ……」


 美月が差し出された長襦袢に腕を通す。

 熊谷は心臓がうるさいのは、見慣れないその姿のせいだと自分に言い聞かせた。


「ごめん。ちょっと腕回すね?」

「はーい」


 それでも、腰紐を回す手が微かに震える。


(着付けするの久しぶりだから、緊張してるのかな? 何か会話……)


 熊谷は着物の擦れる音だけが響くこの空間に耐え切れずに口を開く。


「安倍ちゃんは彼氏いないの?」

「え……?」


 突然話し掛けられた美月は、目を丸くして熊谷を見つめた。

 熊谷もまさか自分の口をついて出る言葉がそんなものだと思わずに動揺する。


(何言ってんだ? 俺!)


「いや、あの……安倍ちゃんのそういう話、あんま聞かないなー、って」


 熊谷はしどろもどろになりながら弁明したが、美月は特に気にする様子もなく『うーん』と唸った。


「あたしの事好きになってくれる人なんていないよー」

「え、篠宮は?」

「はぁ!?」


 美月に思いきり睨まれる。


(……あれ? 違うの?)


「無理……。あり得ない! うわ、鳥肌立った!」

「ちょっと、安倍ちゃん動いちゃダメ!」

「だって熊谷くんが変な事言うから」


 美月は不服そうに眉間に皺を寄せた。


(なんかいっつも一緒にいるし、ずっと付き合ってるのかと思ってた、けど……違うんだ?)


「今日はサイズ感見るだけだから、スタンダードに着せちゃうね?」

「よく分かんないけど、よろしく」

「次ここに腕通して」

「なんか熊谷くん、衣装さんみたいだね」

「そうだよ。今は安倍ちゃん専属」

「何それ! かっけー!」

「じゃあ、帯回すからちょっと腕上げて」

「こう?」

「うん。そうそう」


 背中から帯を回すと、丁度後ろから抱きついた形になる。顔に美月の髪の毛が触れて、シャンプーの香りが鼻を掠めた。


「んふふ……くすぐったいよ」

「もう、ちょっと我慢しなさい」

「はーい」


(もう少し……このまま、こうしていたい)


「熊谷、くん?」


 手の止まってしまった熊谷を不思議そうに美月が見つめた。


(あぁ、そうか)


 気づいてしまった。胸の高鳴りの正体。

 熊谷の指が、美月の髪に伸びる。


「よく似合ってるよ」

「……ありが、と」


 肌の白い美月の頬が、着物と同じピンクに染まった。



「よし、出来た」


 淡いピンクの花柄の着物に、濃い紫の帯紐と藤色の帯を合わせた。美月は全身鏡の前で一周して、自分の姿をキラキラした眼差しで見つめる。


「すごーい! なんか帯の結び方変わってんねー?」

「あぁ、これ? これはね、『なでしこ』って結び方なんだ」

「ふ~ん。ねぇ! まゆ達に見せに行っていい?」

「あ、ちょっと待って!」


 そう言うと、美月の髪にトンボ玉の髪飾りを添える。


「よし、オッケー」

「ありがとう! 専属の衣装さん!」


 小走りで向かう美月の背中に、なでしこが揺れていた。




【ナデシコの花言葉:純粋な愛】

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