ピンチはチャンス?
「え!? サイズがない??」
「はい。全部アウトでした」
「どういう事?」
「衣装室のドレス全部試したんですが、どれも入らなくて……」
「入らない?」
「……胸が」
「…………え?」
美月が申し訳なさそうな小さな声で、そう言う。九条は改めて美月の身体をまじまじと見つめ、納得した。
美月はぽっちゃりと言うよりは、豊満。いわゆる巨乳である。本人はただの脂肪だと嫌がっているが、女子達からは羨望の眼差しを向けられている。以前興味本位で紘乃がサイズを聞いた事がある。答えははぐらかされたが、普通に店で買えなくて困っていると言っていた。
そんな美月が通常サイズのドレスが入るはずもなく……。真由が衣装屋に問い合わせたところ、そのサイズは特注になるという事だった。最低でも一ヶ月はかかるらしい。
「それじゃあ間に合わないじゃないか」
「……デブでごめんなさいいい!」
「違う違う! 美月ちゃんのせいじゃないから!」
「やっぱり、あたしじゃない方がいいんじゃ……」
「よし。分かった! マネージャー、熊谷呼んできて」
「あ、はい……?」
真由は頭にクエスチョンマークをたくさん浮かべながらも、熊谷を探しに行った。美月はその背中を不安そうに見つめる。
「大丈夫! 眼鏡さんにピッタリの衣装があるよ」
「……?」
しばらくして、熊谷がバタバタと自分の身体に不釣り合いな大きい鞄を抱えてやって来た。
「じゃあ後は頼んだよ、熊谷」
「はい」
「それじゃ僕たちは別室で待機」
皆が出て言って、美月と熊谷は更衣室に二人きりになる。
「さっそく始めようか?」
「熊谷くん……これって?」
「うん。着物。これならある程度のサイズはカバー出来るし、ダメでも俺が仕立て直し出来るから」
「でもあたし着物の着方分からないよ?」
「だから俺が手伝ってあげる。ごめんね。生徒会で女物の着付け出来るの俺だけなんだ」
「あ、ううん! 熊谷くんで良かったよぅ」
中性的な熊谷だからか、最近美月は少しずつ免疫が出来たらしい。他の誰か――特に藤代じゃなくて良かったと、美月は胸を撫で下ろした。
「よろしくお願いします」
美月は、そう改まったようにお辞儀をして、ニッコリと笑った。
「と、とりあえずこれ着て……。俺後ろ向いてるから」
「はーい」
熊谷は肌襦袢を美月に渡すと、背中を向けた。
「…………」
無言が続く中、美月の着替える音だけが熊谷の耳に届く。パサリと服が落ちる度に、その心臓は高鳴っていった。




