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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
波乱の文化祭
54/126

深紅Ⅱ

「あの、馬鹿ッ……!!」


 吐き出すように呟いた大久保は、気づくと視聴覚室の分厚いカーテンを引きちぎってベランダの手すりに足をかけていた。


「大久保、何して……?」


 熊谷の言葉に耳も傾けずに、大久保は躊躇なくカーテンもろとも飛び降りた。


「大久保……!? 大久保ッ!!」

「おい! ここ三階だぞ!?」




「きゃああああああ!!」


 校庭に響く悲鳴。

 紘乃の目の前が黒一色に染まる。


「……おおく、ぼ?」


 何が起きたのか、分からない。

 それでも、大久保が九条を助けに来てくれた事だけは不思議と理解出来た。黒い布で九条を覆うと、担ぎ上げる。


(どうしよう……どうしよう……先輩が消えちゃう)


 涙が溢れて止まらない。

 紘乃はしゃがみこんだまま、動けずにいた。


「何してんだ!?」

「…………」

「さっさと来い! お前以外に誰がコイツ助けんだよ!?」

「……う、うんッ!」


「ひろちゃん!? どうしたの、ひろちゃん!?」


 誰かの紘乃を呼び止める声がする。しかしその声にも耳を貸さず、紘乃は大久保の後を追いかけた。



 ***



【旧寮・九条の部屋】


 九条は青白い顔で眠りについている。


(でも、良かった……)


 先程までは苦しそうに息をしていたけれど、今は少し落ち着いたようだった。


(大久保がもう少し来るのが遅かったら……考えただけで、震えが止まらない)


「応急措置はしたから。加藤はしばらく側にいてやれよ」

「え、大久保行っちゃうの……?」


 紘乃は部屋を出ていこうとする大久保の背中を追おうとしたら、まだ朦朧とした意識の九条に手を掴まれた。その力はあまりに弱々しく、儚い。


(この間はあんな……痣が出来るほどだったのに)


 紘乃は苦しくなって、その手を両手で包み込んだ。


「あと、頼んだぜ」

「うん。ありがとう大久保……」


 大久保が出ていくのを、背中で感じた。



 包み込んだ九条の手をもう一度ぎゅうっと握る。微かに九条の温度を感じて、それだけで涙が出た。


 あのまま、消えてしまうんじゃないかと思った。

 サラサラと消えていく九条の手が、頭から離れない。


 紘乃はずっと、恐れていた。

 九条をこれ以上好きになってしまう自分も、いつか飽きられて捨てられてしまうかもしれない未来も。怖くてたまらなくなって、自らの手で切り捨てた。

 でも本当に怖いのは、九条を失う事なのだと気づいてしまった。


「……九条、先輩ッ」


(あたしの血でもなんでも全部あげるから)

(あたしの命と引きかえでもいいから)


(お願い……消えないでッ……!)



「ひ、ろの……?」

「……ッ! せんぱ、い?」

「……泣いてるの?」

「だって……ッ、先輩、……先輩ッ!!」


 九条が微笑んで、紘乃の頭を撫でる。そしてその指で涙を拭った。それでも涙は止まりそうにない。


「先輩……どうして、あんな事?」

「ひろのに聞いておきたい事があって……」

「……あたしに?」

「僕の事、嫌いになっちゃった?」

「そんな訳……ッ、ないじゃないですかッ!!」


(今でも、こんなに好きなのに)


「……そっか」


 九条は、深い溜息をついて微笑む。


(……どうしてそんな、安心した顔するんですか?)


(分からない。でも……)


「先輩が無事で、ッ、本っ当に、良かっ、た……」


 顔さえも上げられなくなって泣きじゃくる紘乃を、九条は静かに抱き締めた。


(先輩の香り……。目が眩むほど愛しい)


「ねぇ、知ってる?」


 目を合わせて九条が聞く。その眼はどこまでも深く優しい。


「君が一瞬で泣き止む方法。教えてあげる……」


 唇が触れる瞬間、九条は甘く紘乃の名前を呼んだ。

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