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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
波乱の文化祭
53/126

深紅

 刻に縛り付けられて、ただ僕は流れてく人の波を見てるだけ。

 ひろの……。

 君も、僕を置いていくんだね。




「あー、なんでこんな暑い日に外でテニス!?」

「いいよねー男子は。先生出張で視聴覚室で映画だって」

「タカちゃんも出張行けばいいのにぃー」


(あ、ひろの……)


 生徒会室の窓から、校庭で体育の授業をしている紘乃の姿が見える。クラスメートと何かを話しながら笑い合っていた。

 思えば九条はそんな風に笑う紘乃を見た事がない。九条といる時の紘乃は、いつだって苦しそうに目を閉じて、涙を流していた。


(感情など遥か昔に捨てたつもりだったのに)


「ひろの……」


(君はもう……)



 ***



「うわぁ……女子可哀想だね」

「この暑さで外体育はヤバいだろ?」


 視聴覚室の分厚いカーテンから、クラスメート達が外を覗いている。

 大久保は珍しく授業に出ていた。体育など特に面倒くさくてサボった事しかなかったのだが――今日は暗くて涼しい部屋。『こういう時くらい出たら?』と熊谷に半ば強制的に連れて来られたのだった。


「ね? 涼しくていいでしょ?」

「まぁ、教室よりマシ」

「大久保ってホント、暑いの苦手だよね」


 連日の猛暑。こんな日に外に出るなんて、考えたくもない。


「あれ……? 九条先輩?」


 熊谷の言葉に、大久保は半信半疑で外を見た。


(アイツ……俺なんかよりずっと、外が苦手なはず)


 しかしそこには確かに渡り廊下をフラフラと歩く九条の姿。


(何してんだ?)


 ある一点を見つめる九条の視線の先に、紘乃を見つけた。そして九条はそのまま、直射日光の降り注ぐ校庭へと歩みを進めた。


「あの、馬鹿ッ!」

「大久保? ……大久保ッ!!」



 ***



「……ひ、ろの」


 掠れて消えそうな声。それはずっと紘乃が望んでいたあの人の声。聞こえるはずもない。


(でも、まさか……)


 いないと分かっていながら、振り向いた。


「……く、じょう、先輩?」


 突然視界に入った九条は、今まで見たどの笑顔よりも優しい笑顔で微笑んで。


 そのままスローモーションのようにゆっくりと、地面に倒れた。


「……ッ!? 先輩!? 先輩!! 九条先輩!!」


 慌てて駆け寄ると、その眼はいつになく弱々しく紘乃を見つめている。

 紘乃の頬に触れようと伸ばした手が、砂のようにサラサラと流れて、消え入りそうだった。


「せ、んぱい……?」


 微笑む九条の眼から一滴の涙が、零れ落ちた。


『僕たちは鬼だよ?』

『純血種は日光を浴びたら消えてしまうんだ』


「先輩! 先輩! 先輩ッ……!! 嫌ああああああ!!!」

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