深紅
刻に縛り付けられて、ただ僕は流れてく人の波を見てるだけ。
ひろの……。
君も、僕を置いていくんだね。
「あー、なんでこんな暑い日に外でテニス!?」
「いいよねー男子は。先生出張で視聴覚室で映画だって」
「タカちゃんも出張行けばいいのにぃー」
(あ、ひろの……)
生徒会室の窓から、校庭で体育の授業をしている紘乃の姿が見える。クラスメートと何かを話しながら笑い合っていた。
思えば九条はそんな風に笑う紘乃を見た事がない。九条といる時の紘乃は、いつだって苦しそうに目を閉じて、涙を流していた。
(感情など遥か昔に捨てたつもりだったのに)
「ひろの……」
(君はもう……)
***
「うわぁ……女子可哀想だね」
「この暑さで外体育はヤバいだろ?」
視聴覚室の分厚いカーテンから、クラスメート達が外を覗いている。
大久保は珍しく授業に出ていた。体育など特に面倒くさくてサボった事しかなかったのだが――今日は暗くて涼しい部屋。『こういう時くらい出たら?』と熊谷に半ば強制的に連れて来られたのだった。
「ね? 涼しくていいでしょ?」
「まぁ、教室よりマシ」
「大久保ってホント、暑いの苦手だよね」
連日の猛暑。こんな日に外に出るなんて、考えたくもない。
「あれ……? 九条先輩?」
熊谷の言葉に、大久保は半信半疑で外を見た。
(アイツ……俺なんかよりずっと、外が苦手なはず)
しかしそこには確かに渡り廊下をフラフラと歩く九条の姿。
(何してんだ?)
ある一点を見つめる九条の視線の先に、紘乃を見つけた。そして九条はそのまま、直射日光の降り注ぐ校庭へと歩みを進めた。
「あの、馬鹿ッ!」
「大久保? ……大久保ッ!!」
***
「……ひ、ろの」
掠れて消えそうな声。それはずっと紘乃が望んでいたあの人の声。聞こえるはずもない。
(でも、まさか……)
いないと分かっていながら、振り向いた。
「……く、じょう、先輩?」
突然視界に入った九条は、今まで見たどの笑顔よりも優しい笑顔で微笑んで。
そのままスローモーションのようにゆっくりと、地面に倒れた。
「……ッ!? 先輩!? 先輩!! 九条先輩!!」
慌てて駆け寄ると、その眼はいつになく弱々しく紘乃を見つめている。
紘乃の頬に触れようと伸ばした手が、砂のようにサラサラと流れて、消え入りそうだった。
「せ、んぱい……?」
微笑む九条の眼から一滴の涙が、零れ落ちた。
『僕たちは鬼だよ?』
『純血種は日光を浴びたら消えてしまうんだ』
「先輩! 先輩! 先輩ッ……!! 嫌ああああああ!!!」




