恋する乙男
真由が朝教室に行くと、紘乃が美月とごろにゃんしていた。
「おはよーまゆ」
「まゆりん、おはよー」
「お、おはよ……」
(……なんだろう、この光景?)
「どうしたの、ひろちゃん?」
「最近ごろにゃん出来なくて寂しいんだよねー?」
美月は自分の胸に顔を埋めたままの紘乃を、撫でながら優しく微笑んだ。
「えっと……?」
「さやちゃんのトコに司くんが来てるんだもん」
「あの馬鹿、朝っぱらから」
「だからあたしは美月ちゃんとごろにゃんするの!」
「はいはい。いつでもどうぞ」
「あ、そういう事だったの?」
「見てんじゃねーよ、しのみや!」
美月は隣に座る篠宮をギロリと睨む。そうは言っても、学年一の美人と謳われる紘乃と、無駄に豊満な美月が朝から戯れている姿は、クラスの注目の的だった。
(美月ちゃん、そんなに篠宮くんにだけ厳しく当たらなくてもいいのに)
真由は毎日そう思っているのだが、それを美月に言うと火に油を注ぐようなものだとよく知っている。黙って篠宮を見ると、困ったように笑っていた。
「真由!」
「え? 小澤くん!?」
「ちょっといい?」
「う、うん……。な、なに?」
突然クラスに現れた小澤に、真由は動揺を隠せない。小澤がこのクラスを訪れた事など、今まで一度もなかった。
「おやおや。呼び出しですかぁ? 妬けるねぇ」
「もう美月ちゃん! そんなんじゃないって!」
慌てて真由はパタパタと小澤と一緒にどこかへ行ってしまう。
篠宮は昨日不意に感じた違和感を思い出した。
「なぁ……小澤と野々村さんってあんな仲良かったっけ?」
「あら、気になりますか?」
「……別に」
(別に……? 何だよ、別に、って)
篠宮は自分で答えた言葉に疑問を覚える。こんなに気になって心中穏やかでないのに、『別に』な訳がない。
「いつの間にか真由呼びだしね~」
「なんか、楽しそうだね……美月ちゃん」
「そりゃあ、恋する乙女を見てるのは楽しいですよ。な? しのみや?」
「俺はもうダメだぁー……」
「落ち込んでる落ち込んでる」
篠宮はガックリと肩を落とした。その姿を見て、美月が楽しそうにニヤニヤと笑う。
「え、もしかして篠宮くんってまゆりんの事好きだったの?」
「……ッ!?」
「うわ、鼻の下伸びてるよー。もう一度その鼻へし折ってやろうか?」
「美月……真顔でそういう怖い事言わないで。マジでトラウマ!」
小澤の昨日の言葉が脳裏を過る。こんなに永く刻を共にしてきた篠宮でも時々、小澤が何を考えているのか分からない時がある。
「さっさと当たって砕け散ってしまえ!」
「いやいや、砕け散っちゃマズイだろ!?」
「そのまま粉々になって消えちゃえよ」
「美月ってさ、俺の応援してるの? してないの?」
「しのみやが落ち込むのを楽しんでおる」
「……さよか」
そんな二人の会話を聞いて、紘乃は密かに夫婦漫才のようだと思っていた。




