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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
波乱の文化祭
50/126

シークレット

「さやー! 行こうぜ!」


 司はいつも教室中に響き渡るようなでっかい声で、紗弥加の名前を呼ぶ。


「ちょっと、つかさ声デカイ」

「あ? わりぃわりぃ」


(ホントに悪いって思ってんのかな?)


「じゃあ行こ!」

「あ、ごめん。今日あたし文化祭実行委員の会議があるんだ」

「あ? あーそういえばそんな事言ってたかも……」

「だから先行ってて」

「なぁー、それサボれねぇの?」

「ダメダメ! うちの部長めっちゃ怖いんだから! サボったのバレたら殺される」

「うわ……それ出た方がいいわ」

「そっちも今日から本格的に稽古始まるんでしょ?」

「まぁ今日は本読みと衣装のフィッティングだけ、な」

「そうなんだぁ?」

「そっち終わったら絶対来いよ」

「うん、分かった。じゃあまた後でね」


――とは言ったものの、やはり会議はつまらない。紗弥加は藤代の言う通りサボらなかった自分を後悔した。


(早く練習見に行きたいなぁ……。今日はどんな出し物をするのか発表するだけだし。興味あるのは生徒会だけだし)


 席を見渡すと議長の横に、一年の滝本を見つけた。つまらなそうに頬杖をついてペンをくるくる回してる。


(うわぁ……ちょー指キレイ! すごい細くて長ーい! うわあぁ……)


「あ、」


 その指の長さに見惚れていると、伏せられていた目とバッチリ視線が合ってしまう。


(ヤバ……目、合った)


 目の合った滝本は、軽く会釈をした。


(え、あ……)


「次、オケ部。……オケ部!」

「あ、はいッ!」

「オケ部は何をやるんですか?」

「え、あー……えーと、ジャズ喫茶です」

「毎年恒例の、ですね。分かりました。じゃあ次」


(ヤバい。めっちゃ焦ったぁー)


 滝本の視線にどぎまぎしている所に、発表の順番が回ってきた。紗弥加の心臓はまだバクバクしている。


(もう滝本くんがいきなり会釈なんかするから……)


 訴える紗弥加の視線に気付いた滝本は、申し訳なさそうにクシャリと笑った。


「……ッ!」


(ちょっ、と……今のは、不意打ち)


 藤代の後輩。紗弥加はずっと、年下なのにクールな人だと思っていた。


(あんな風に、笑うんだ……?)


「次、生徒会」

「うちは恒例のミュージカルを」

「去年のも良かったよな」

「今年のテーマは恋愛らしいんで」

「男ばっかで!?」

「いや、なんか色々考えてるみたいですよ?」


(あーミュージカル楽しみだなー。早く舞台の司の見たいなー)


 自分の発表が終わった紗弥加は、会議の事などすっかり忘れて、その頭の中は大好きな藤代でいっぱいだった。


「それじゃあ今日はこの辺で。次回までに企画書と予算の提示お願いします。解散」



「お疲れさまです」

「あ、おつです」


 やっと終わったと、紗弥加はただ出してあっただけの筆箱を鞄に仕舞って立ち上がろうとした時、滝本に話し掛けられた。


(先輩の彼女ってだけのあたしにまで挨拶しに来てくれた。どんだけ律義なんだ……)


「これから練習見に来るんスか?」

「あ、うん」


 話しながら横を歩く。少し見上げて話す角度に、紗弥加は改めて滝本の背の高さを実感し感動していた。


(うわぁ……司より全然大きい)


「また司がワガママ言って呼んだんでしょ?」

「え、まぁ……そんなトコ?」


 初めて話すのに、全然そんな感じがしない。紗弥加は滝本に不思議な感覚を感じていた。


「お邪魔、かな?」

「いや、全然それは。ラブラブで羨ましいスよ」

「滝本くん、彼女は?」

「いないッスよ、俺は」

「えー! 嘘だぁ! 絶対モテるでしょ!?」

「え、モテないスよ」

「ウソウソ! 滝本くんカッコイイもん」

「…………」


 滝本は驚いたように目を見開いて、しばらくの間。


「……ありがとうございます」


 そう言って、照れ臭そうにはにかんだ。


(な、なんだ……。そんな素直に照れられると、あたしまで恥ずかしくなってきた)


「じゃあね、さやか先輩」

「あ、うん」


 気がつくと、もう体育館の前。

 紗弥加は走って体育館に入っていくその背中から目が離せなかった。

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