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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
波乱の文化祭
49/126

still……

「……くじょう、せんぱ、ッあ……」

「ねぇ、君も、僕を置いていく……?」

「あ、九条……せんぱ、い」


 快楽に溺れて、すがる女のコは、さぞ可愛いだろう。



 泣きすぎて涙さえも枯れてしまった。別れを告げたのは紘乃の方だ。

 

(何があっても関係ないんだ。もう、苦しむ必要はない)


「加藤! 悪ぃ、これ職員室出しといて!!」

「ちょっと! 今日の日直、相原でしょ!?」

「これからデートなんだ! マジ今度何か奢るから」

「……学食の限定十食ランチ」

「OK! サンキュ!」


 相原はもう一度お礼を言うと、足早に走って行ってしまった。


(仕方ないなぁ……)


 壊れそうな甘い時間を手放して、戻ってきたのは平凡で退屈な日々。心は驚くほど、平穏で静か。


(これでいいんだ)


 紘乃は何度も自分に言い聞かせた。


(……これで良かった、んだよね?)


「あれ? 今日の日直って加藤だったか?」

「違いますー」

「相原か。仕方ねーヤツだな全く……。その辺置いといてくれ。ご苦労様」

「失礼しましたー」


――ガラッ。


「あ、」


 それは不意打ち。ずっと会わないように注意していたのに。


「ひろの……」

「……ッ」


 紘乃は慌てて目を逸らして、すれ違おうとした。その瞬間思いきり腕を掴まれる。


「……ッ嫌」


 振り払おうとしても、力が強くて振り払えない。

 その時の九条は今まで見た事ないくらい、冷たい眼をしていた。


(……先輩が、怖い!!)


「ちょっと来て」


 抗えないまま、階段の踊り場まで九条に引っ張られた。血が止まるほど強く掴まれた手首が、痛い。

 あの頃はいつだって余裕そうに笑って、何を考えているのか全然分からなかったのに。

 今は余裕無さそうに、感情をむき出して。


(こんな先輩、知らない)


 平穏だった、凍りついていた、心臓が……また。


――ダンッ!!


「……ッイ、タ」


 思いきり壁に叩きつけるように押し付けられる。紘乃を捕らえる九条の眼は、震えるほど冷たかった。


「どうして電話に出てくれないの? どうして会ってくれないの?」


 掴んでいた九条の力が抜けていく。手首には九条の手の痕が赤く残っていた。


「ねぇ、答えてよ……ひろの」


 さっきまでの冷たさが嘘みたいに、九条の眼が揺らぐ。


 その声に、指から伝わる熱に、引き戻されそうになる。でも紘乃の中に、どこかでそれを冷静に見ている自分もいた。


「あたしの代わりなんていっぱいいるくせに」


 こんなに冷たい声が出るなんて、自分でもビックリした。その時九条がどんな顔をしていたか、思い出せない。

 ただ、これで本当に終わったと、そう思った。


 九条を振り払って、歩き出す。



(さよなら。さよなら。さよなら)


(九条先輩)


(あたしは、)


 階段を駆け下りて角を曲がると、ガクンと足の力が一気に抜けて崩れ落ちた。もう枯れてしまったと思っていた涙が、また溢れ出す。


(あたしは、まだあなたが……大好きです)

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