イザナイ
「ええええ!? 生徒会長に呼び出された!?」
「うん……どうしようまゆ~」
加藤紘乃は人生最大のピンチを迎えていた。
「あーもうどうしよう」
「行かない方がいいんじゃない? 九条先輩、あんまりいい噂聞かないしさぁ……」
真由はよく耳にする九条の噂を思い出し、顔を歪めた。
確かに九条が生徒会の中でもはるかに魅力的なのは、いくら男の趣味が悪いと美月に称される真由でも理解していた。切れ長な目。その中に甘さを潜めた漆黒の瞳。目にかかる黒髪サラサラストレートヘア。そしてその表情にはいつも余裕そうな笑みをたたえている。あの笑顔には九条に興味のない自分までドキッとさせられる事があるくらいだ。
女子高生というものは、そういう余裕のありそうな男に弱いと真由は常々思っている。同年代のガヤガヤした男子に興味はないのだ。
しかし九条に関しては、その魅力に騙されそうになるが、女性との良くない話題は後を絶たない。特定の彼女は作らず、毎日違う相手と過ごしているらしいとか、実は三年生は全員関係を持った事があるらしいとか……。どこまで本当か分からないが、まるで蝶のように花から花へと移っていく、そんな人らしい。
「でも行かないと退学だよ?」
「退学はダメ」
「だよね……」
「美月ちゃんは?」
「……部活、かな?」
「こんな一大事に! なんでいないのぉ」
「なんか最近放課後やけに忙しそうだったし、仕方ないよ」
「でも」
「と、とりあえず行ってくる」
「大丈夫?」
「……多分」
「あたし教室に残ってるからさ! なんかあったら連絡して?」
「うん……ごめん、ありがとう」
紘乃はスマホを握りしめて、弱々しく手を振って行ってしまった。
その後ろ姿を見つめながら、自分はどうしたらいいのか、真由には分からなかった。友達をみすみすあの悪い噂の絶えない生徒会長の元へ送り出していいものかと、何度も自問自答したが、答えは出ない。
「もう、どこで何してるの~……助けてよ、美月ちゃん」
いつもは如何なる時も、送ったこっちがびっくりするくらいの早さで返信が返ってくる美月。しかし少しでも頼りにしたいこんな時に限って、美月からはメールも電話も返ってくることはなかった。