HELP
「俺、病院行くからな? 帰るからな?」
「んー……(別に言って行かんでいいし)」
「原稿頼むぞ」
「んー……(もう書けてるし、余裕)」
「五時までに出さないと大久保怒るから」
「んー……(だからもう出来てるっての)」
頼んだからな。
しつこい程注意を繰り返す篠宮の声に返事をする前に、美月は意識を手放した。
「……んん……え、あれ?」
美月が目を覚ますと、もう放課後だった。
「てゆか誰か起こせよ」
一人呟いてみても、答えてくれる人は誰もいない。
(……五時半か。よく寝た)
そういえば意識を手放す前に、篠宮がやたらと煩かった事を美月は思い出した。
(勝手に帰れっての)
怪我をさせた張本人は、さほど気にしていなかった。
「…………」
机の上に見覚えのある原稿用紙。
「…………」
『五時までに出さないと大久保怒るから』
確かにそう篠宮は言っていた。
現在、五時半。
(何故五時までに出さなければならない原稿がここに……?)
「…………」
まだ寝起きでぼんやりしてた頭が一気に覚醒する。
(あたしがこの上に寝てたからかああああ!!!!)
いつものパイプ役の篠宮はもういない。
「つか帰るなよ!」
(いや、すみません。怪我させたのはあたしです)
自業自得というやつだ。この時初めて美月は反省と後悔をしたのだった。
(多分、出さないよりは遅れても出した方がいいよなぁ)
(でもでも、あの恐ろしいいけめん集団に乗り込む勇気はない!)
「あーもうどうしよ!!」
こうして頭を抱えている間も、刻は無情にも過ぎていく。
(もう生徒会室に原稿だけ投げ込んで逃げよう。そうしよう)
そう思い立って、美月は一応生徒会室前に来てみたものの。
「うー……」
なかなか次の行動に移せないでいた。何とかばれずにこの場を切り抜けたい。
(神様。どうかあたしに勇気を)
美月は意を決して生徒会室のドアに手をかけた。
(そーっと……そーっと……)
そしてやっとほんの一ミリ開いた隙間から、原稿を無理矢理差し込む。
***
「遅い……」
五時半を過ぎても一向に原稿が来ない事に、大久保は最高に苛立っていた。
普段いくらギリギリに話を持っていったとしても、ゴーストライターを頼んでから原稿の提出が遅れる事などなかった。仕事がどんどん遅れていく。
(六時までに来なかったら、ぶん殴りに行ってやる)
――カタン
微かな音に人の気配を感じたが、誰も入ってくる様子はない。
(……気のせい、か?)
そう思って視線を外そうとしたドアの隙間から、何かが入ってきた。
「…………」
――ガラッ。
「ぎゃあ!!」
「……何してる?」
ドアを開けると見覚えのある女。
その女は、尻餅をついたまま動けないみたいだった。手には原稿用紙を握っている。
(篠宮は何してる? ……まぁ、いい)
「お前……」
「は、はいッ!」
「とりあえず手伝え」
「……はい?」
「さっさとしろ。お前に拒否権はない」
「はいいいい」
尻餅をついた女――美月は慌てて立ち上がり、涙目で返事をした。




