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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
誘惑の闇
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家族会議

 夕樹は食事を終え食器を片付けていたら、美月に『話がある』とやけに深刻な顔で言われた。

 カイトもテーブルを拭き終えると、何も言わずに席に着いた。それを見た夕樹も仕方なく椅子に腰を降ろす。

 二人が座ったのを確認して、美月は口を開いた。


「さぁ、家族会議を始めるよ!」


 美月が張り切った様子で切り出す。夕樹は明らかに怪訝な顔をした。


「何これ?」

「まぁまぁ、付き合ってあげよ?」


 カイトは慣れた様子で、『続けてください?』と美月に促した。

 美月は仕切り直すようにもう一度家族会議の開催を高らかに宣言した。


(いつもこんな事してるのか……?)


 夕樹は正直面倒くさいと思ったが、居候の身なのでそれ以上は口には出さなかった。


「皆に集まっていただいたのは他でもない」


 家族会議というには不自然までに堅苦しい口調で話し始める。

 カイトはそんな美月の事を『何でも形から入るタイプ』と称した。


「夕樹の名字を決めたいと思う!」

「……はい?」


 美月が勝手に始めた事。夕樹は終わるまで傍観していようと思っていたのだが。まさか議題に自分の名前が挙がるとは思っていなかった。


「何、いきなり?」

「急を要するんだ!」


 そう言う美月は何故か涙目だ。

 とりあえずカイトが美月を落ち着かせて、詳しい話を聞く。

 それによると、夕樹の編入届を九条に出してもらおうとお願いしに行ったところ(もちろん紘乃付きで)、名字未記入で突き返されたという。


「当たり前だろ!」

「この前みたいに適当に付けたら良かったのに……」

「付けたよ!」

「じゃあそれでいいじゃん」

「却下された」

「なんて付けたんスか?」

「……鬼束」

「なんで鬼、付けた?」

「だってカッコイイじゃん! 鬼束夕樹」


 はぁ……と、二人で思わず溜息。

 他にも百目鬼どうめきなど挙げたが、全て九条によって却下されたらしい。


(鬼から離れたらいいだけなのに)


「早く決めなきゃ!」


 美月はそう焦っているが、それが夕樹には分からない。


「別に学校行かなくてもいいじゃん……」


 夕樹がぼそりと呟く。


「そんなのダメに決まってるだろ!」


 夕樹はいきなり美月が真顔で怒るから、ビックリして角が出てしまう。

 子供の鬼である夕樹はまだ、上手く角が隠せないでいた(九条曰く、上手く隠せるのは慣れだそうだ)


「ごめんごめん。大きな声出して悪かった……」


 本当に申し訳なさそうに謝りながら美月が夕樹のおでこをそっと撫でた。


「またこうなっちゃうかもしれないし、学校なんか行きたくない」


 夕樹が下を向いて、ツンと口を尖らせる。


「どうしよう……可愛い……」

「みづき先輩、ややこしくなるから落ち着いて」


 カイトは今にも夕樹に抱きつきそうな美月を慌てて押さえた。


「話を戻しましょう」

「そうだな。夕樹、とりあえず学校は行った方がいい」

「なんで?」


 学校は九条達にとって、氣を補充出来る場だと言う。しかし人間である美月と一緒に住んでいる夕樹にとって、まだ子供故それだけで氣は十分足りるのだ。


「今まで学校は?」

「行った事ないけど……」

「じゃあやっぱり行くべきだよ」

「これ以上人間と関わる気ない」

「それでもこれから夕樹が生きていくには人間が必要なんだ。人間と共に歩むしかない」


 夕樹はふと、あの時の事を思い出す。まるで自分が自分じゃないみたいだった。今でも思い出すと、角の辺りがひどく痛む。


「そのためには人間社会で知恵を付けなきゃな? 夕樹もあたしも」


 美月が優しく撫でると、不思議と痛みは治まっていった。


「学校は社会の縮図だ。夕樹が生きていくための第一歩」

「俺も協力するからさ。一緒に行こうよ」

「そうだ! カイトと同じクラスにしてもらおう!」

「いいスね! でもそんな事出来るんスか?」

「紘乃に頼めば九条先輩が動く。そうすれば怖いものは何もない」

「なるほど」


(まだ行くって言ってないのに)


 本人の意見を無視してどんどん話を進めていく二人に、夕樹はこの日何度目かの溜息をついた。

 人間が何が楽しくて学校なんてものに通っているか分からない。


(……でも、)


 夕樹は嬉々として話す美月とカイトを交互に見つめる。

 この不思議な二人と通うなら、少しは暇つぶしくらいになると思った。


「で、名前どうすんの?」

「え?」

「そうスよ。まずそれ決めなきゃ」

「うーんうーん……」


 美月はまた頭を抱えて悩み始めてしまう。


「別に先輩と同じでいいんじゃない?」

「え?」

「名字」

「…………」


 ぽかんと口を開けたままの美月に、夕樹はフッと笑って部屋に戻っていった。


「聞いたか? カイト」

「はい。確かに」


 それから数日後、無事に編入届が受理された夕樹は美月達と同じ雪花学園に通う事になる。

 しかしその間に『自分の弟が入ってくる』と美月が言いふらして回ったため、夕樹は美月の事を『姉ちゃん』と呼ばなくてはならない羽目になったのは、もう少し先の話。

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