惑う
帰り道、真由の隣を当たり前のように小澤が歩いている。そのあまりのナチュラルさに、真由は断る隙も見つからなかった。
「きょ、今日は、ありがと……」
「どういたしまして」
優しく微笑む小澤に見つめられて、真由は次の言葉が見つからない。
(篠宮くんの時はあんなに話が止まらなかったのに。何か……何か喋れ、自分!)
「マネージャーさ」
「な、何ッ……?」
一生懸命話のネタを探っている時に急に話しかけられ、思わず声が裏返ってしまう。
「いつもあれ一人でやってんの? 大変じゃね?」
「いや、いつもは……」
(そうだった。いつもは篠宮くんが手伝ってくれて……大変だなんて思った事なかった)
篠宮のいない体育館。埋まらない胸の空虚感を真由は感じていた。
張り詰めていた糸が、ふっと切れて。
(……ヤバい、泣きそう)
「大変な時は言ってよ? いつでも手伝うからさ」
「うん。ありがとう……」
真由は小澤に気づかれないように、慌てて涙を拭いた。小澤の柔らかくて、明るい声が、少しだけ気持ちを楽にさせてくれる。
(勘のいい美月ちゃんだったら、きっと……気づかれてた)
ここにいるのが小澤で良かった、と真由は心底思った。
それからは他愛もない話をしながら帰った。真由は今まで頭も良く物静かな小澤がどうして藤代と仲が良いのかずっと疑問だったのだが。
(意外と明るい人なんだなぁ……小澤くんって)
「ねぇ、マネージャー」
「……ん?」
「篠宮となんかあった?」
「え!?」
「練習中ずっと篠宮の事、探してたみたいだったから」
「……ッ、そんな事、ない」
声が震える。
「嘘。だってマネージャー、いつも篠宮の事しか見てないじゃん」
(……ッ!?)
――ドクンドクン、ドクンッ
心臓が早鐘みたいにうるさく鳴り響いて、止まない。真由はその音が小澤に聞こえてしまうんじゃないかと思う程、鼓動は全身に駆け巡った。
「……ど、うして?」
「ずっと見てたから」
(え……?)
「真由の事、ずっと見てたよ。
気づかなかった……?」
あんなに脈打っていた鼓動が、一瞬止まった気がした。




