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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
誘惑の闇
33/126

重なる影

「さてとー、部活部活ー」


 美月は軽い足取りで部活へと向かっていた。

 合気道部の部員は美月を入れて五人。その中の一人は、五人にならないと同好会扱いになると知り、美月が慌てて名前だけ借りた幽霊部員だ。

 そんな合気道部の道場は、体育館より用具倉庫より、もっと奥。つまりは校舎のものすごーく隅っこにあり、古びているし、暗い。あまり生徒にも知られてない場所にひっそりと佇んでいる。

 美月はその人気のない感じがわりと好きだったが、真由や紘乃は怖くてあんまり近づきたくないと言っていた。


「よっしゃあ! 今日も張り切ってこー!」


(……およよ?)


 部室から道場に向かう途中、女子生徒の人影。


(こんなトコに近づく女子なんて……)


 それは滅多にない、というか部員以外で誰かを見かけたのは初めてだ。


(しかもあれは……今朝の藤代さまの彼女さん? こんなトコで何して?)


「待ってよ~」

「早く来いって」


「……ッ!?」


 それは美月には聞き間違えるはずのない、他でもない藤代の声だった。

 その声に、胸がざわつく。


「つかさ。こんなトコで、何……ッ」


 藤代が近づくと、顔を真っ赤にする彼女はやっぱり可愛くて。


(すごく、お似合い……)


「はいはい。もう喋るの禁止ね」

「え……ッあ、んん、」


 二人の影が重なる。ぼんやりと、うっかり二人に付いてきてしまった自分を美月は後悔した。

 これ以上見てはいけない気がして、足早に立ち去った。


――ガサガサッ


「えッ、今誰か……!?」

「あれ? まだそんな余裕な訳?」

「ちがッ、ん……つか、さ……」




(あれ? なんでだ……涙が)


 ショックとか、悔しいとか、悲しいとか。

 どんな感情で自分が泣いてるのか、美月には分からなかった。ただただ涙が溢れて、止まらなかった。



 ***



「あれ? 美月……?」


 胴着姿で歩き回るその姿は、ただでさえヨーロピアン調な学園内にはあまりに滑稽で目についた。


「お前、何してんの?」

「…………」


 篠宮はその姿に吹き出しかけたが、いつもはここで殴ってくるであろう美月は自分の顔も見ようともせず、すれ違って行ってしまう。

 それは篠宮が違和感を感じるには十分だった。


(……あれ? 今……)


「おい! ちょっと待てって!」


 慌てて手を取り、無理矢理振り向かせる。やっと交わったその目は涙で濡れていた。


(え、泣いてる?)


「どうした?」

「なんでもない」

「そんな訳ねーだろ……何あった?」


 美月は手の甲で、グイっと頬を拭うと篠宮を睨みつけた。


「離せ」

「ちゃんと理由話せよ」

「目にゴミ入った。それだけ」

「ぜってー嘘!」

「もうしのみやウザイ! 離せって言ってんじゃん!」



 ***



(あ、美月ちゃんと篠宮くんだ)


 今日日直だった真由は、職員室に日誌を届けて生徒会が文化祭の練習をしている第三体育館に向かう途中だった。

 廊下の窓から、ふと中庭にいる二人の姿が目に入った。

 美月は否定をするが、やはり二人は仲が良いと真由は思う。気付くと、いつも一緒にいる姿ばかりが目につく。


(何話してるんだろう……?)


 また言い争いか、と思ったけれど、少し様子が違う事に真由は気づいた。

 篠宮は美月の手を掴んで振り向かせると、その顔を覗き込む。


「え……?」


 そこからは二人の表情は見えない。しかし見ていられなくなって、真由は慌てて背を向けた。


 真由は時々思う事がある。

 篠宮は美月の事を好きなのではないか、と。


(あたしは何も見てない。何も、見なかった)


(だから普通に過ごそう)


 真由はそう心に誓う。

 しかしグサリとトゲの刺さった胸は、痛くて苦しかった。

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