僕らのお家
「せんぱーい。大丈夫スかぁ?」
「ん〜……だいじょぶない」
美月は唸りながら、おんぶされていたカイトの背中から自分の布団にダイブした。
「制服のまま寝たらシワになりますよ〜?」
「ん〜…………」
「……あぁ、寝ちゃったよ」
「え? もう?」
「この人寝付きだけはいいの」
そう言うとカイトは慣れた手付きで、寝てしまった美月の頭を持ち上げて枕に乗せる。そしてお腹にはタオルケットをかけた。もう制服を着替えさせるのは諦めたらしい。
「どうして……」
「え?」
「どうして、俺を連れて来たの?」
夕樹の問いに、カイトは困ったように笑った。
一度鬼の本能で触れた夕樹には痛いほど伝わってきた。
美月がただの好奇心なんかで闘っている訳じゃない。襲われた女子生徒だけではなく、心の底から自分を救おうとしてくれた事。
しかし何故この人が自分の命を懸けてまで他人を助けるのか、夕樹には分からなかった。
本来純血種は力の暴走を防ぐために、混血種の監視下で生活しなければならない。そのため夕樹も生徒会の皆が暮らす旧寮に入るはずだった。
しかし何故か美月の住むマンションに来ている。
「みづき先輩だからだよ」
夕樹の考えを見透かしたように、カイトが答える。
眠る美月の髪を指で梳きながら、『そういう人なんだ』と付け足した。
美月の倒れた後。カイトは美月を背負い、夕樹に荷物を持ってもらい帰って来たのだった。
「あの……ここって?」
「みづき先輩と……俺ん家?」
「え?」
カイトは自分の言葉に少し疑問符を付けたが、ゴソゴソと自分のポケットを漁ると鍵を取り出しドアを開けた。やはりここで一緒に住んでいるようだ。
「広っ……」
中に入った夕樹は思わず口をあんぐりと開けた。
そこは美月とカイトが二人で住むには十分すぎる程広い2LDK。カイトは美月を和室の布団に連れていくと、夕樹に部屋を案内しながら少し話をした。
実家の神社が山奥にある美月は、高校入学を学校近くのマンションに一人暮らしをしていた――というのも、早くに母親を亡くした美月は父の安倍一清と二人家族であり、父と二人で暮らすはずだった。しかし神社の神主をしている父はなかなか山から帰って来る事がなく、実質一人暮らしという事になっている。
元々欲のない美月は、こじんまりとした部屋で良かったのだが、少々過保護な父がどうしてもオートロックを希望して聞かなかったのだ。その条件を満たす部屋が、この無駄に広い部屋しかなかった。
そこにカイトが転がり込んだのが数ヶ月前。
「こんな身の上だからね?」
出会った当時、家のなかったカイトを『一人では広すぎるから』と言って、理由も聞かずに住まわせてくれるようになった。それから美月とカイトの二人暮らしが始まったのだ。
「トイレはこっち。で、ここは書斎。中は入らない方がいい……っていうか入れない」
「あぁ」
カイトが少し開いたドアからは、今にも溢れそうな本の数々。これは父の一清が置いていったもので、美月も手がつけられないままになっているらしい。
「ここが俺の……つか今日から俺達の寝室ね」
「本当に俺が住んでもいいのかな?」
「みづき先輩がいいって言ってるんだからいいんじゃない?」
美月が倒れる少し前。鬼の話に飽きた美月はカイトに『夕樹を連れて帰っていい?』と耳打ちしていた。『自分の家なんだから好きにしなよ』と二つ返事をしたが、住まわせてもらっているカイトに確認する辺り、美月らしいとカイトは思った。
こうして人間と狼(半分人間)と鬼の奇妙な三人暮らしが始まったのである。




