ネタバレ
「何これ? 『ヘルハンター』?」
美月がぶちまけた鞄の中から出てきた本を、熊谷はパラパラと捲る。
「漫画だね」
「でも薄くない?」
「いわゆる、同人誌ってやつだな……」
美月は観念したように肩を竦めて、少しずつ話し始めた。
「『ヘルハンター』は、平凡な女子高生が実はストリートファイターで、人間社会に住み着くアヤカシと戦って強くなっていく青春ファンタジーだよ」
「ふーん」
「ちなみにしのみやの愛読書」
「え……?」
「なんでそんな事知って……!?」
「お前相変わらず戦隊モノ好きな?」
藤代が茶化すように笑う。篠宮は目を泳がせながら必死に弁明しようとしたが、慌てて『そんな事より!』と切り返した。
「つかなんでお前こんなマイナーな同人誌なんか持ってんだよ……」
「だってあたし作者だもん」
「「「「は?」」」」
「マイナーとは失礼だな」
「いやいやいや、作者って何!?」
「名前」
「え?」
「簡単なアナグラムだよ」
当たり前のような顔で、言う美月。
(アナグラムって並び替え、だよな……?)
「作者の名前は?」
「ちょっと待って。えーと……」
本を手にしていた熊谷が、表紙の作者名を探す。
「ベア・君津……?」
「なんだそれ」
篠宮は頭をフル回転させていた。作者が美月と聞いても、未だ信じられない気持ちでいっぱいだった。
ベア・君津
べあきみづ
あべみづき
(……ッ!)
「安倍美月!」
「気づくだろ普通」
「いや、お前……愛する漫画の原作者様がこんな近くにいるとは思わねーだろ?」
「やっと分かったか、ニブチン。しのみや、お前の名前はちゃーんと顧客リストに入ってるんだよ」
「待って……じゃあヘルハンターって……」
「あたしだよ。つかほぼリアル戦闘日記」
(言われてみれば……)
主人公の愛犬ナイトメアはカイトそっくり。先月やっと発売された待望の新刊に出てきた生徒会長はバンパイアであった。
(コイツいつから九条先輩の事……?)
「じゃあこれに出てくる生徒会って俺達?」
熊谷が楽しげにページを捲ると、ちょうど生徒会が登場した所だった。藤代も一緒に覗き込んで、誰がどのキャラクターか当てようとしている。
「これ、俺?」
藤代はまさしく自分自身のキャラクターを指差した。
「勝手に使って申し訳ありませんでした!!」
美月は焦った様子で、土下座をして謝る。
「俺めっちゃイケメンじゃーん」
「え?」
怒られると思っていたのに、意外な好感触だった。
ビックリして顔を上げた瞬間。
「お前めっちゃイイ奴だな!」
自分がイケメンに描かれている事に気を良くした藤代は、美月の肩をポンと叩いた。
(…………)
「ギャー! 美月ちゃん!? 大丈夫!?」
「ちょっ、藤代の馬鹿あああ!!」
「え、俺のせい?」
その後の事を美月はよく覚えていない。後日真由から聞いた話によると、人間そんなに赤くなるのかという程、全身真っ赤になり泡をふいて倒れたらしい。
そしてこの日以来、藤代には美月に対する接近禁止命令が出されたのであった。




