屍食鬼
純血種の成れの果て。
ソレは鬼達に、『屍食鬼』と呼ばれている。
「屍食鬼……?」
「あぁ。純血種は常に乾きに飢えてる」
近年人間との共存が進み、常に氣を得られるようになった。
それでも埋められない血の本能。その本能に抗えきれなくなった時、彼らは化物へと変貌する。
「ねぇ、それって九条先輩も……?」
「あーそれは大丈夫」
「大丈夫って、言い切れるの?」
「だって九条先輩を守るために、俺達がいるんだから」
「どういう事……?」
混血種は人間と鬼を嗅ぎ分ける事が出来る。彼らのずっと祖先は、その特性を生かして鬼狩りを生業としていた。もっと言えば彼らは鬼を全滅させるために人間に造られた産物だ。
しかし最近は鬼狩りなどの風習が無くなりつつある事。そして混血種が純血種を監視する事で、鬼も人間社会でひっそりと暮らしている。
「力の暴走とかすぐ止められるように俺達が側にいるんだ」
「へぇ〜」
「でも最近は屍食鬼に達するような飢餓状態の純血なんていないと思ってたけど……」
「確かに。俺達の世代じゃ屍食鬼なんて歴史上の話で名前聞くくらいだよな」
「そうなの?」
「あぁ。本物は初めて見たよ」
「しかもそれが一度に二体も現れるなんて、どう考えてもおかしいよね?」
みんなの視線は自然と夕樹と名付けられた少年に集まる。
血の暴走が始まるのは少なくとも半世紀を生きた鬼とも言われている。こんな少年が屍食鬼に達したという話は今まで聞いた事がない。
「君は何故、屍食鬼に……?」
「……これ、」
夕樹がポケットから取り出したのは錠剤。
「これってサプリメント?」
「一般的にはそうスね」
「どういう事?」
「あなた達なら分かると思います」
そう言って、夕樹はその錠剤を藤代に差し出した。
藤代はそれを掴むと、何かに気づいたように顔を歪めて鼻に近付ける。
「これ……ただのサプリメントじゃない。微量だけど、純血の匂いするぜ?」
「え?」
「誰がこんなもの……」
「闇社会ではわりと有名ですよ。安くて手軽に手に入る、って」
「聞いた事ある。最近の研究で、人間の氣を具現化してサプリメントに出来るようになったって」
「そういえば正樹もそのプロジェクトに参加してなかったっけ?」
「小澤くんが?」
今度は小澤に視線が集まる。
小澤は藤代から錠剤を受け取ると、同じように匂いを嗅ぎ、そして首を傾げた。
「でもまだ試作段階だし、世に出回るものじゃない。それに純血の血が混じるなんてあり得ない。どうしてこんなものが?」
「夕樹はそれを飲んであんな姿に?」
「飲んだら、急に体が熱くなって。なんか、自分が自分じゃないっつーか……」
「そして人間を襲った?」
「はい。気づいたら、その人が、」
いきなり指を差された美月は一瞬ムッとしたような顔をした。だけど次の瞬間、にっこり笑って。
「みづきちゃんって呼んでいいぞ」
「みづき……先輩」
「えー! 絶対夕樹のが年上じゃーん」
「今大事な話してっから! 美月ちょっと黙ってて」
「はーい」
本当に事の重大さが分かっているのか、いないのか。既にこの話に飽きたらしい美月はカイトにちょっかい出して遊び始めた。
(多分コイツが一番聞いとかなきゃいけねー話なんじゃねーのか? そのうち、そんな話聞いてないとか言い出す絶対)
「まだ子供の純血である夕樹が、他の純血の血を摂取した事でその力が強まって、屍食鬼に?」
「つまりは故意に純血を混ぜた錠剤を闇社会に流してる奴がいるって事だね」
「誰が? 何のために?」
「さぁ、 そこまでは……」
「闇の陰謀……裏切りと欲望……事件を結ぶ点……」
「美月ちゃん、何か知ってるの?」
「どうしよう……妄想止まんない」
「なんだ、妄想か」
「でも美月ちゃんの妄想舐めない方がいいって!」
「よし。次のテーマはそれで行こう!」
(妄想? 次のテーマ? なんだ、それ……)
美月はそそくさと自分の鞄を持って、背を向けた。
「では、わたくしはこれにて! 行くぞ、カイト! 夕樹!」
「え、俺も?」
「さっさとついて来い。ずらかるぞ!」
「あ、おい! 待て! お前まだ何か隠してるな?」
篠宮は走り出そうとする美月の鞄を掴んで引っ張る。無理やり引き戻された美月は、その拍子に鞄の中身を地面にぶちまけて尻もちをついた。
「なんだこれ?」
鞄から出てきたのは、教科書でも化粧ポーチでもなく。
「あ、ヤベ……」
美月の頬を冷や汗が伝った。




