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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
誘惑の闇
20/126

遭遇

「じゃあ帰ろうか」


 篠宮の言葉に、真由は小さく笑って頷いた。


「野々村さん、さっき大久保と何話してたの?」

「美月ちゃんの事。もし何かのきっかけでバレちゃって、そしたら守ってもらえるか頼んでみたけどダメだった……」

「大久保に頼むなんてチャレンジャーだね、野々村さんも」

「だってりゅうちゃんがOK出したら何でも大丈夫そうなんだもん」


(……りゅうちゃん、か)


 大久保の女嫌いの原因を知った真由は、何とか克服させようとして奮闘している。今では触れないまでも多少話すくらいは平気になったらしい。


(あの女ってだけで拒否反応示してた大久保が、ねぇ?)


「そういえば美月ちゃんの名前言ったら、りゅうちゃんがゴーストって呼んでたけど、何でかな?」

「……えっと、それは、」


(……ッ?)


 不意に篠宮の鼻をかすめる血の匂い。それもかすり傷程度なんてものではない。

 若い女の、血だ。


「野々村さんッ……!?」


 ヤバい。逃げよう。

 篠宮が言おうとした瞬間、目の前に何かがゆらりと姿を現す。

 ドサリと音を立てて、血まみれの女の人が倒れるのが見えた。


「な、なに……あれ?」

「……屍食鬼ししょくき!?」

「え?」


 危険だと本能が叫ぶ。ソレは人であるが人の形をしておらず。

 肌は赤くただれ、骨と肉が剥きだしになった腕の先には奇妙に長い爪。大きな口から見える牙。そこから先程の女性のものと思われる血がボタボタと滴り落ち、目はぎょろりと次の獲物を狙っている。まるで血に飢えた化物。


「きゃああああああ!!!!!!」


 さっきまで距離のあったソレは瞬間に、真由の前に立ちはだかり、鋭く尖った大きな爪を振り下ろす。


「野々村さん!!」


 考えるより先に、身体は勝手に動いた。


「……し、のみや、くん?」


 真由を抱き締める腕に力を込める。


(良かった。野々村さん、無事だ……)


 しかし感じるはずの痛みはいつまでも訪れなかった。


「何してんだ!? 早く逃げろ!!」

「……大久保!?」


 声に振り返ると、化物と対峙してる大久保の背中。


「行こう! 野々村さん!!」

「りゅうちゃんだけ置いて行くなんて、嫌ッ!!」

「何があっても振り向くな。前だけ見て走れ」

「わ、分かった……。わりぃ! 大久保!!」


 篠宮は動こうとしない真由を無理矢理立たせて、手を引いて走り出す。


(とにかく今は野々村さんを安全な場所へ……ッ!)


――グサッ


「ッ……ぅぐ!!」


 何かを刺すような鈍い音。

 間もなく耳に届いたのは呻き声。充満する血の匂い。


 何があっても振り向かないと約束した。それが真由を守る最善。


(でも……)


(俺は馬鹿だから。大久保)

(お前を見捨てる事なんて出来ない!!)

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