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闇に恋して  作者: 冴島月ノ助
誘惑の闇
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それはどこにでもある日常

「おい、篠宮」


 篠宮康太は呼ばれて声のした方を見た。教室の入口には明らかに機嫌の悪そうな人が一名。


「何?」


 近づくと、黄色い悲鳴と共にクラスの温度が五度上がる。

 生徒会のメンツは都内でも有名なイケメン集団と言われている。女子には格段に人気があるのだ。

 特にその中でも人気があるのが、不機嫌極まりない空気を存分に醸し出しているこの男――大久保龍一は生徒会の中でも副会長を務め、目立つ事は嫌うが、学園の影の帝王とも呼ばれている。

 病弱なのか、それともただ単にサボり魔なのか。なかなかクラスにも顔を見せない事で有名な大久保が隣のクラスに顔を出したのだから、女子の熱が上がるのも当然。

 そんな人気など興味の欠片もない大久保はチッと舌打ちをして、篠宮を睨んだ。


(えー、呼ばれたから来たのに……。俺何も悪い事してないのに)


 篠宮は頭ではぶつくさと文句をたれたが、目の前の男をこれ以上不機嫌にさせるといい事は何もないのをよく知っているので声には出さないようにした。


「今日の昼休み、生徒会室」

「……あぁ、分かった」


 暗号のような単語だけ言い放って、ぐったりとした様子で大久保は背中を向けて行ってしまう。


「あ、おい。大久保!」


 『大丈夫か?』そう聞こうとしたけど、もう何も話したくないオーラ全開の背中を見て、やめた。

 すると大久保が不意に振り向く。


「あと連載の原稿も。昼休みまで」

「え、あ、ちょっと! ……あー、行っちゃったよ」


(昼休みまでって、あと一時間しかないじゃんか。もっと早く言えっての)


 篠宮はため息をつきながら席に戻ると、隣の席からもピンクのため息。


「あーもう! 心臓止まるかと思った!」

「イッテェ!」


 篠宮が席に着くと同時に、隣の席の安倍美月が篠宮の頭をペシンと叩く。美月は休み時間に席まで遊びに来ていた野々村真由と大久保の話で盛り上がっていた。


(つか今、なんで俺、殴られた?)


 篠宮は頭を擦りながら考えたが答えは見つからなかった。

 美月は自称男性恐怖症。イケメンを見るのは好きらしいのだが、近付いたり話したりするのは至極苦手だと言う。確かに一年の時から同じクラスだった篠宮でさえ、男子と話す所など思い出せないくらいだ。

 しかし何故か篠宮にだけ、元々Sっ気強い美月はしばしばこのような態度を取る。

 篠宮はさっきの疑問を投げかけずに、そのまま黙って二人の会話を聞く事にした。


「何あの人! ヤバい……カッコ良すぎて死ぬ!」

「えー確かにカッコイイけどー。目付き悪いし、怖いし、優しくないし、男としては最低じゃない?」


 篠宮は頭の中で真由の意見に激しく同意した。


(女子がなんであんな奴にキャーキャーなるのか不明だ。俺、野々村さんと気が合うかも)


「そういうザ・女寄せ付けませんオーラがいいんじゃん! コイツと違って」

「は? なんだよそれ」

「わぁ近寄んな! ヲタクが移る!」


(ヒドイ……この人。俺だって生徒会の中じゃそれなりに人気あるのに)

 

 美月曰く、篠宮と大久保には雲泥の差があるらしい。篠宮が落ち込んでいるのを気にも留めず、話は続く。


「じゃあ、まゆはどんな人がいいわけー?」

「……やさしい、人」


 篠宮は頬を赤く染める真由と、一瞬目が合った。


(え、何だろう……?)


「はい! 却下ぁ~!」

「えーまだ何も言ってない!」

「言わなくても分かります。それは認めません」


――キーンコーンカーン


「あ、チャイム鳴っちゃった。じゃあ戻るねー」

「うん。またね」


 真由が少し離れた自分の席に戻ると、寂しそうに美月が手を振る。

 篠宮は別に同じクラスなんだから、と思ったが、それも前に言ったら殴られたからもう言わない事にした。


「ねぇ、さっきの何? 何が却下なの?」

「黙れヲタク」


(えー……なんで俺にだけこんな厳しいんだ。あー頼みづれー)


「あ、あのさ、美月……」

「断る」

「まだ何も言ってねーし」

「アンタがどもる時は何か嫌な事頼む時」

「……よくご存知で」

「用件だけなら聞いてやってもいいよ?」

「さすが美月さま! お優しい!」

「まぁな」

「また連載書いてくださいますか?」

「生徒会の会報くらい自分達で書けし」

「そこを何とか! 人気高いんだよ、会長の連載」


 毎月生徒会から出される会報は有料制。金欠で生徒会が回らなくなった時に気まぐれで始めたのだが、これが今や大人気。その売上がそのまま学校行事に消化されるから、教師たちも黙って見ている。

 しかし面倒臭がりの会長は全く書く気がないので、仕方なく毎回文才のある美月にゴーストライターを頼んでいるのだ。はからずも美月が書くようになってから売上が伸びたのも事実。ゴーストライターの事を知っているのは篠宮と大久保と当の本人だけ。だから大久保はこうして篠宮に連載を頼みに来る。


「文字数は?」

「六百文字」

「何奢ってくれる?」

「えー! 俺、今金欠なんだけど」

「糖朝のマンゴープリン」

「はいはい。分かりました。昼休みまでにイケる?」

「ゴーストライター舐めんなよ」


 そしてスラスラと書き始めた美月は三十分もしないうちに原稿を書き上げた。こういう時に発揮する集中力に篠宮は毎回関心していた。


(……仕方ない。マンゴープリンに杏仁豆腐も付けてやるか)

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