負の連鎖
九条からの電話は、『今朝何食べた?』という、超絶どうでもいい電話であった。
「あれ? 美月ちゃんもう食べ終わったの?」
紘乃が電話から戻ると美月は既にお弁当箱を仕舞っていた。
「うん。ちょっと図書室で調べものしてくる」
「ふーん。いってらっさい」
真由は下を向いたまま、何も言わない。美月はそんな真由を一瞥したが、そのまま屋上を出て行った。
「……まゆりん? 美月ちゃんと何かあった?」
顔を上げた真由の目には、涙が浮かんでいた。
「え、何? どうしたの!?」
「ひろちゃ、ん……ッ、どうしよ。あたしもう、美月ちゃんに嘘つけない」
***
「いいよ、別に」
「美月ちゃ、ん……違くて」
真由は声が震えるのが自分でも分かった。そして自分の嘘が美月を悲しませている事も。
「何か理由があんでしょ?」
「う、うん……そうなんだけど」
「だったらいい。聞かない。無理に聞こうとしてごめん」
「美月ちゃん」
「もう何も聞かないから。安心して?」
涙が出そうで。でもここで泣くのは何か間違っている気がして、真由は我慢した。
「じゃあ、行くね」
声が出ない。顔も見られない。
今どんな言葉をかけたらいいのか、真由には分からなかった。
***
美月はあんな言い方しか出来なかった自分に呆れた。心の中はいつまでも晴れない霧みたいに、何も見えない。
ズラリと並ぶ本棚から見つけた目的の本は、はるか頭上で美月の身長では届きそうもない。
「なんであんな上にあんだよ……」
思わず舌打ち。上の本を取るための小さな脚立を持ってきて手を伸ばす。それでもギリギリ届くか、届かないか。
手を伸ばしながら、頭の中ではグルグル色んな考えが巡って。考えないようにしていても、負の感情は沸いてくる。
(嫌われちゃった、かな?)
「もう、嫌われてるか……」
呟いた言葉は、グサリと胸に突き刺さった。
「……ッ!!」
本に手が届いた瞬間、足元がぐらつく。『落ちる!』と思った時には宙に浮いていた。本がバタバタと降ってくる。
「安倍ちゃん大丈夫!?」
予想していた痛みより先に、頭上から聞き慣れた声。気づくと、背中をふわりと抱き止められていた。




