放課後は緊張の幕開け
雪花学園の生徒会は毎年文化祭で舞台を披露するのが、最近の恒例となっている――というのも、文化祭の集客アップを目指して九条が始めたものだ。無駄に顔のいい生徒会の面々が公式に見られるとあって、その集客力はハンパない。
真由が生徒会の補佐を始めて一週間。
「コラぁ! サボるな藤代!」
前途は多難だった。
「うっせー! まゆ!」
「藤代ムカつくぅ!」
真由は藤代が嫌いだった。根本的に合わないのだ。
真面目で何事もキッチリするタイプの真由には、次から次へと女に手を出す藤代は理解しがたい相手だった。お互い言いたい放題言えるので、楽でもあるのだが。
先日いきなり美月が真由に泣きついてきた事があった。何事かと問えば、藤代に名前を呼ばれたなんて、何とも健気な理由で彼女は泣いていた。
でもその相手がこの口の悪い藤代だと思うと、真由は頭が痛かった。
「いい加減にしろよ。司」
「あーはいはい」
篠宮が助け船を出す。怒られた藤代はいそいそと小澤の元へ逃げていった。
藤代は幼なじみの篠宮の言うことならちゃんと聞く。
「なんか悪いな……」
「なんで篠宮くんが謝るの?」
「いや、なんでだろう……? 癖かな。アイツが悪い事すると、いつも俺も謝ってたから」
『なんでこんなイイ人が藤代なんかと友達なんだ』と、真由は心底不思議に思った。そして、そんな篠宮が改めて好きだ、と。
「あのさ……今日一緒に帰らない?」
「え?」
「……嫌、かな?」
「全然! 嫌じゃ、ないけど」
「ほら、最近この辺物騒だし! 送るよ」
(あぁ。そうだよね……)
篠宮は誰にでも優しい。そんな優しさに惚れた真由には分かっていた事だ。
それでも誘われて変な期待をした自分もいた。
でも違う、そうじゃない、と真由は自分の心に言い聞かせた。
「あ、九条先輩」
誰かの声がして振り向くと、九条が紘乃を連れてやって来た。
「ひろちゃん!」
「まゆーっ」
「先輩の呼び出し大丈夫だった?」
「あ、うん。ヘーキ。ありがとね」
「なら良かった……それは?」
手には紘乃愛用のカメラ『LUMIX-GF6』を抱えている。
「うん。文化祭用の写真頼まれた。今日はそのスチール撮影」
そう言って紘乃は嬉しそうに笑った。ファインダーを覗き込んだ紘乃は既にプロの顔で。リハ中の生徒会を次々に撮っていく。
真由は隣に座って、その様子をぼんやり見ていた。
(こうして見てると普通なんだけどなぁ……)
生徒会の正体を知ってからというもの、真由の環境はだいぶ変わった。しかし彼らの印象は少しも変わらない。むしろ近づいたような気がして、嬉しい。
そんな感傷に浸っていた真由の隣に、ストンと誰かが座った。
「く、九条先輩!」
「ひろのまだかなぁ……」
(え、いつの間にひろの呼び?)
「……飽きた」
(アンタが連れて来たんでしょうがああああ!!)
真由は思わず突っ込みそうになったが、頑張って心の中に納めた。膝を抱えてイジけている様は、後輩の真由から見ても可愛く見える。
(この人がホントに先輩で、生徒会長で、鬼なのだろうか……)
九条と関わってから、真由の頭の中は混乱しっぱなしだった。
「ひろのー帰ろよー」
「え、あ、はい」
紘乃がファインダーから視線を外して、やっと自分の方を向いたから先輩は機嫌を直したらしい。紘乃が片付けるのを、『はやく!』と急かしながらニコニコ見ている。
やっぱり可愛い人なんだなぁ、と真由は思った。
しかしはたとこれまでの九条の女誑しぶりを思い出す。紘乃が夢中だから何も言えないが、かなり大変な相手だという事だけは確信出来た。
「帰ろっか、ひろの。じゃあ今日は解散!」
「あ、失礼しました」
(何しに来たんだ、あの人!?)
「でもさぁ、珍しいよな」
「え? 何が?」
「九条先輩。今まであんな風におんなじ女のコに何度も声かける事無かったよな?」
「そうなの?」
「わりと気に入ってんじゃん? 加藤の事」
「そう、なんだ……」
九条が分からない。紘乃はあの人と一緒にいて大丈夫なのだろうか――と心配しても既に二人で帰ってしまった。
「じゃあ俺たちも帰ろうか?」
「……!」
すっかり忘れていた。紘乃の心配ばかりしている場合ではなかった。真由の心臓に、再び緊張の糸が張り詰める。
一瞬強張った真由の表情には気付かずに、篠宮は歩き出した。




