熱病
「二年C組の加藤紘乃さん。至急生徒会室まで来て下さい」
(……ッ!?)
紘乃は、まさか自分が全校放送で呼び出される日が来るとは思ってもいなかった。しかも生徒会室。それが生徒会長である九条からの呼び出しである事は、既に全校の暗黙の了解となりつつあった。
「はぁ……」
クラスの女子は羨望の眼差しで、教室を出る紘乃を見ている。紘乃はそれを背中で悟った。
唯一事情を知っている真由だけは、心配そうに『ついてこうか?』と言ってくれたのだが。
「はぁ……」
紘乃は『多分大丈夫』と一人で生徒会へ歩きを進めた。
近づくたび重いため息が出る。だけど、何故だろう……。驚くほど足取りは軽い。
あれからずっと。
九条の匂いとか体温とか手の感触が消えなくて。
それはまるで熱病。
九条の事を考えただけで、身体が熱くなる。
九条の正体を知って、抱いた感情は恐怖ではなかった。紘乃はいけないと分かっているのに惹かれてしまう、自分の感情を止められないでいた。
――コンコン
生徒会室のドアをノックすると、中から『どうぞ』と九条の声がする。その声を聞いただけで、胸がざわついた。
「失礼します」
ドアに手をかけようとしたら、そのドアは勝手に開いた。
「待ってたよ。ひろの」
「……せんぱ、ッ」
不意に手を引かれ、よろめいた所を抱きしめられる。
あの時の匂い。
あの時の体温。
あの時の感触。
全て蘇る。
「会いたかった?」
紘乃の耳元で九条の吐息が揺れる。背中がゾクゾクと震えた。
「……はい」
「僕も、会いたかった」
九条の言葉は全て魔法。二度と解けない呪縛。
紘乃も、分かっている。九条が何人の女性に、同じように囁いたのか。九条が欲しいのは自分ではなく、自分の持つエネルギーなのだという事も。
胸は苦しく軋むのに、紘乃の全てが九条を求めてしまう。
こんな会瀬がいつまで続くのだろう。
紘乃の頬を涙が伝う。背中にしがみつくと、九条も抱き締める力を強めた気がした。
(もう少し……このまま)




